前立腺炎
男性特有の生殖器官である前立腺に炎症が起こる病気で、
排尿痛や頻尿といった膀胱炎症状も招きます。
| どんな病気ですか? 前立腺に炎症を起こす疾患群 前立腺は男性特有の生殖器官です。男性生殖器は、睾丸(精巣)、副睾丸(精巣上体)、 精管、前立腺、精のう腺、陰茎からなりたっています。 前立腺は、その形と大きさが栗の実にたとえられる弾力性のある組織で、膀胱の出口の ところで尿道をとりまいており、精液の一部となる、弱酸性の前立腺液を分泌します。 前立腺の病気としては、老化やホルモンの分泌量の変化などが要因となる 前立腺肥大症がよく知られています。これに対して、前立腺炎は、細菌感染が主な 原因となります。従来は、淋菌による性感染症としての前立腺炎が多かったのですが、 近年は大腸菌などの感染によるケースが大半を占めています。 前立腺に細菌などが感染するルートは、二つに大別されます。 一つは、逆行性感染といわれるものです。尿道から細菌がさかのぼって前立腺の 管腔内に侵入し、感染が広がって急性の炎症を引き起こすケースです。 もう一つは、経脈管性感染です。これは血管やリンパ管を経て細菌が前立腺内に 侵入するケースを指します。痔疾(じしつ)のある人が前立腺炎を発症したときは、 肛門から経脈管性感染も考えられます。 |
| 分類と原因 細菌感染による急性病と慢性病に大別 前立腺炎は、急性と慢性に分けられます。慢性前立腺炎は、さらに細菌性のものと 非細菌性のものに分類されます。プロスタトディニア(前立腺症)を前立腺炎の 一種に加えることもあります。 ・急性前立腺炎 前立腺が細菌に感染して起こる急性の炎症を指します。急性前立腺炎の原因菌は グラム陰性かん菌が多く、そのほとんどは大腸菌です。 性感染症によるものでは、淋菌、クラミジア・トリコマティス、膣トリコモナスなどが 原因となります。 尿道や膀胱、副睾丸の細菌感染が前立腺に波及してくるケースや、あるいは血流に のった細菌が前立腺に至って感染することも少なくありません。 前立腺肥大症や尿道狭窄、糖尿病などの合併症として、急性前立腺炎が 引き起こされるケースもみられます。 ・慢性前立腺炎 急性前立腺炎が慢性に移行する場合と、潜在的に進行して、最初から慢性前立腺炎 として発症するケースがあります。 慢性前立腺炎は、細菌性と非細菌性に分類されます。細菌性は、細菌感染によって 前立腺に炎症が生じるタイプで、ほとんどが急性から移行したものです。非細菌性 前立腺炎は、炎症による症状が現れているにもかかわらず、検査をしても細菌が 検出されない状態を指します。 ・プロスタトディニア(前立腺症) 慢性前立腺炎の症状は現れているものの、前立腺からの分泌液に異常が認められない ケースです。狭義では前立腺炎には含まれないとする説もあります。 膀胱頸部の閉塞、骨盤底筋群の緊張、前立腺周囲のうっ血などが症状を招いている のではないかと考えられています。 |
| 症状 排尿時の痛みや頻尿が特徴 急性前立腺炎と慢性前立腺炎では、症状と現れ方に違いがみられます。 ・急性前立腺炎 発症すると38℃以上の熱が出ることが多く、寒気やふるえを伴うケースも少なく ありません。 細菌感染によって前立腺が急性の炎症を起こすと、排尿痛、頻尿、残尿感といった 膀胱炎の症状を招きます。こうした症状は、前立腺から膀胱の頸部に炎症が及んでいる ことを示しています。尿は濁り、血尿が出るケースもみられます。 炎症の程度と前立腺の腫れが強い時には、排尿困難を招くこともあり、さらに、進行 すれば尿閉を引き起こします。 会陰部や肛門周囲に痛みや不快感が生じたり、外尿道口から膿が出ることもあります。 ・慢性前立腺炎・プロスタトディニア 急性前立腺炎と同じような症状が現れることが多いのですが、急性に比べて軽症です。 熱が出ても微熱にとどまり、排尿異常もそれほど顕著には現れません。 慢性前立腺炎の特徴的な症状は、会陰部の痛みや不快感です。 頻尿、残尿感といった膀胱炎の症状、下腹部や陰のう部、大腿部の痛み、腰痛、 肛門周囲の熱感なども現れます。外尿道口から膿が排出されることもあり、特に早朝に 起こる点が特徴的です。 射精時に痛みを覚えたり、精液に血液が混じるケースもみられます。性欲の減退、 勃起不全などが現れたりもします。 ただし、会陰部の不快感だけが自覚症状というケースもあり、発症していても気づかない ことが少なくありません。 慢性前立腺炎では、頭重感や倦怠感が続いて、何となく体調がよくないというケースも みられます。こうした場合には、心身症の一つとして慢性前立腺炎が起こっている ことが考えられます。心身症は、心理的な原因でからだに症状が現れるものです。 そのため、ストレスなどによって症状が強まる可能性もあります。 プロスタトディニアの場合、症状は慢性前立腺炎と同様の現れ方をします。 |
| 検査と診断 前立腺の触診や尿検査で鑑別 現れている症状から前立腺炎の可能性があるとき、泌尿器科ではさまざまな診察や 検査の結果を参考にして、診断を行います。 急性前立腺炎と慢性前立腺炎は、初診時にある程度判別がつきますが、 その後の治療の流れは異なります。 ・急性前立腺炎 まず問診によって症状が確認され、続いて前立腺触診が行われます。直腸に指を 入れて、直腸壁を通して前立腺に触れ、前立腺の腫れ、圧痛の有無や熱感、動き方 などを調べるものです。 尿の色や状態も診断の大きなポイントになります。急性前立腺炎の場合、白く濁って どろっとした膿尿が出ます。 尿を顕微鏡で観察すると、視野の中に白血球が10個以上みられます。細菌に 感染すると、防衛反応として尿や血液中に白血球が増加します。白血球が認められれば、 細菌感染が起こっていることが裏付けられます。細菌培養すうると、原因菌が 検出されます。 血液検査では、血液を採取して白血球数などを調べます。急性前立腺炎では、 白血球数が増加し、CRP(C反応性たんぱく)が陽性になり、血沈が亢進するなど、 炎症が起こっているときの特有の反応が現れます。 ・慢性前立腺炎 慢性前立腺炎では、尿の色や状態が重要なポイントとなります。ステミイの3杯分尿法と よばれる方法では、尿と前立腺からの分泌液について調べます。 患者にあらかじめ水分をとらせて、排尿の最初の10mlを直後、試験管に採取します。 さらに、200mlほど排尿させた後の尿も試験管に採取します。ここで医師は、肛門から 直腸に指を挿入して前立腺マッサージを行い、前立腺から分泌された圧出液を採取 します。そして、マッサージ後の初尿を10ml採取します。 初尿、中間尿、マッサージ後尿の順に第1尿、第2尿、第3尿とよばれ、前立腺の 圧出液はEPSと通称されます。この四つの検体について、白血球数や細菌の有無などを 確認します。 検体を顕微鏡で調べると、通常は、第1尿と第2尿の中には原因菌や白血球は ほとんど認められず、第3尿とEPSの中に白血球が10個以上認められます。 さらに、第3尿から1ml当たり1万個以上の細菌が認められれば非細菌性という 診断がされます。 慢性前立腺炎の場合、急性症のように血液検査で炎症反応がみられるケースは、 ほとんどありません。 尿道の鈍痛や不快感が現れていたり、血尿を伴うときは、悪性の膀胱腫瘍や 前立腺腫瘍などと鑑別する必要があります。 |
| 治療 抗菌剤や抗生物質などの薬物療法が主体 急性の炎症と慢性の炎症では治療法が異なります。 ・急性前立腺炎 横になって安静を保つことが最も大切です。そのうえで抗菌剤が処方されて、原因菌の 除去が行われます。中等症以下の場合は入院する必要はなく、経口抗菌薬を 2週間程度服用するだけですみます。一方、38℃以上の高熱が出ている重症のケース では、入院して抗生物質の点滴投与を行わなければいけません。 腫瘍が形成されている場合には、切開して膿を排出する手術が実施されます。 尿閉が現れている場合には、尿道からカテーテルを挿入して、尿を膀胱から体外へ 導き出す方法がとられます。 ・慢性前立腺炎・プロスタトディニア 細菌性の場合は、抗菌剤による化学療法と、抗生物質の使用が治療の中心となります。 ニューキノロン剤という抗菌剤の経口投与が最も効果的とされています。 さらに、必要に応じて鎮痛剤や消炎剤を用いて、痛みや腫れをとり除く対処療法が 行われます。 非細菌性の場合は、抗菌薬は投与されず、消炎剤で炎症を鎮める方法がとられます。 前立腺への血流を促すために、前立腺マッサージが2週間に1回ほどの割合で実施 されることもあります。 このほかに、経尿道的前立腺温熱療法や低周波針通電療法などの治療法が選択される ケースもあります。温熱療法は、熱を与えて前立腺の組織を縮小し、排尿障害を改善 させる方法です。低周波治療は、皮膚の上から患部に針を刺して電気刺激を与え、 痛みを取り除くものです。 また、ストレスなどによる心身症の可能性がある場合には、マイナートランキライザー (抗不安薬)が処方されることもあります。 慢性前立腺炎は、治るまでに時間のかかる場合が多いものです。細菌性と非細菌性、 プロスタトディニアの間を移行するケースもみられ、治療期間は通常、数ヶ月を要します。 症状が慢性化してなかなか治癒しなかったり、心身症が原因のときなどに、漢方薬の 服用が効果を発揮することがあります。 プロスタトディニアの場合は、心身症的な要素が強いので、鎮痛剤や鎮静剤の投与に 加えて、抗不安薬の投与や精神療法が行われるケースもあります。 |
| 下腹部への刺激や冷えを避ける 急性前立腺炎を発症したときは、原則として絶対安静です。香辛料を多く使った料理や 炭酸飲料、アルコールなどの刺激の強い飲食物は控えます。また、自転車やオートバイ に乗ることや、ラグビーやサッカーなどの接触プレーの多いスポーツも、治療期間中は 避けましょう。慢性に移行しないように適切な治療を受け、医師の指示を守ることが大切 です。 慢性前立腺炎は、ドライバーやデスクワーク中心の人など、座り続ける職業の男性に 現れやすいものです。同じ姿勢で座り続けていると、骨盤内の血液循環がとどこおって 前立腺炎の誘因となります。 仕事の合間に軽い体操をしたり、下着の重ね履きをして冷えを防ぐなど、生活のなかで 下腹部への負担を避ける工夫を心がけましょう。 |