前立腺がん
男性に特有の泌尿器がんで、進行すると排尿障害や腰痛などを起します。
60歳以上の高齢者に発生する確率が高く、増加の傾向にあります。
| どんな病気ですか? 男性特有の臓器に発生するがん 前立腺がんは、男性特有の臓器である前立腺に発生するがんです。 前立腺は、栗の形に似た直径焼くcm程度、重さは通常15g前後の大きさの男性副性器で、 膀胱の出口から尿道を取り囲むようにして、後面は直腸と接しています。前立腺は、たくさんの 腺組織からできていて、精液の一部を構成する前立腺液をつくりだす重要な役割を果たしています。 前立腺は、膀胱頸部から尖部(せんぶ)までの尿道の周囲にある内腺と、その外側の外線から 発生するのが大きな特徴です。 高齢の男性によくみられる前立腺の病気に前立腺肥大症があります。前立腺がんも 前立腺肥大症も排尿困難、頻尿、残尿感といった同じ症状が現れるため、前立腺がんを理解する には、前立腺肥大症についての知識も必要といえます。 前立腺肥大症は、前立腺内腺が肥大して結節性腫瘤(こぶ)ができる病気です。 また、前立腺がんの多くは、この前立腺肥大症を伴っているため、二つの病気の関連性を心配する 人も多くいます。しかし、前立腺肥大症は内腺から発生するもので、外腺が発生母体である 前立腺がんとは、本来まったく性質の違う病気です。 したがって、前立腺肥大症が前立腺がんに移行することはありません。また、前立腺肥大症は、 良性疾患ですから転移することはありませんが、前立腺がんは、ほかのがんと同様に転移します。 前立腺の外腺から発生したがんは、初めは米粒ほどの大きさの硬結(しこり)ですが、次第に 増大して精のうや膀胱、尿管へと病変が広がっていきます。前立腺と直腸の間には、 デノンビリエ筋膜という硬い膜があり、この膜に阻まれるために、直腸のほうに浸潤することは 比較的少ないようです。 転移には、リンパ節を介して広がるリンパ行性転移と、血液中にがん細胞が入って広がる 血行性転移があります。リンパ行性転移では、前立腺内の神経周囲のリンパ管内への浸潤が 特徴で、そこから膀胱、仙骨、外腸骨、腰部、骨盤リンパ節に転移します。 一方、血行性転移で、特に骨盤骨、下部腰椎、大腿骨などによく起こります。 肺や肝臓などの内臓に転移して、がんが全身に広がれば、やがて死に至ります。 前立腺がんの発症年齢の中心は、60歳以上の高齢者です。 日本でも患者数、死亡率ともに大幅に増加しています。前立腺がんによる死亡者数の推移を みると、1970年には883人で、人工10万人に対する死亡率は1,7であったものが、 1995年には5,399人で8,9となり、急激に増加していることがわかります。 患者数の増加の背景の一つに、診断率の向上があります。また、高齢者に多いということもあって 高齢者数の増加も影響していますが、日本人の生活環境が食生活を中心に欧米化したことが 深く関係しているものと考えられます。 社会環境の変化に伴って、今後ますます増加すると推測されます。 |
| 原因と症状 がんの進行度により7段階に分類 前立腺がんの原因としては、食生活を含めた生活環境要因のほかに、老化による男性ホルモンと 女性ホルモンのバランスの崩れなどがあげられます。 また、前立腺は精液の一部を生成する重要な役割を担っていることから、性生活も危険因子の 一つにあげられています。しかし、確定要因に関しては、さらに今後の研究を待たないといけません。 ・がん組織の悪性度によっても分類 前立腺がんは、進行の度合いによって、A1〜D2の7段階のステージ(病期)に分類されます。 また、がん組織の悪性度によっても、高分化腺がん、中分化腺がん、低分化腺がんの3種類に 分類されます。高分化腺がんが、最も悪性度の低いもので、低分化腺がんは、最も悪性度の 高い性質のがんです。 ステージAは、前立腺肥大症の手術などの際に採取した組織を調べることで偶然がん組織が 発見されるケースで、偶発がんともよばれています。ステージAは、片葉内に限局している 高分化腺がんA1と、びまん性で中分化・低分化腺がんのA2に分類されます。同じ偶発がんでも A2の悪性度は高く、A1とA2の予後は大きく違ってきます。 ステージBは、がんが前立腺内にとどまっている段階の早期がんで、さらにB1とB2に分類されます。 B1は片葉内に限局しているがんで、B2は両葉に浸潤しているものです。 ステージCは、前立腺被膜から精のう、膀胱頸部、尿道などに浸潤しているものの、転移は みられない進行がんです。 ステージDは、明らかに転移が認められるがんで、D1とD2に分類されます。D1は、リンパ節だけに 転移があるもので、D2はリンパ節だけでなく、そのほかの臓器や骨などにも転移がある段階です。 ・初期にはほとんど自覚症状がない 前立腺がんは、進行が遅いのが特徴で、ステージAやBなどの初期にはほとんど自覚症状がなく、 ときに会陰部や直腸部の不快感や、重圧感がある程度です。また、症状が現れても、主に、 尿が出にくくなる(排尿困難)、排尿の回数が増える(頻尿)、排尿を終えてもすっきりしない (残尿感)などといった、前立腺肥大症と同様の症状です。 がんが膀胱に及んでくると、尿に血が混じったり、尿路感染を生じ、膀胱炎症状になることが あります。また、精のうから膀胱の後側に浸潤してくると、尿管を圧迫して尿の通過が悪くなり、 腎機能が低下してきます。さらに、骨盤や背骨に転移した場合は、腰痛や坐骨神経痛などが 現れるほか、骨盤内のリンパ節転移では、腹部腫瘤や下肢のむくみ、骨髄転移による貧血などの 症状がみられるようになります。 大部分は排尿障害など尿路の異常を初期症状としますが、なかには骨転移による症状だけが 起こることもあり、整形外科を受診してはじめてがんとわかるケースもあります。 いずれにしても、顕著な症状が現れるようになったときは、すでにがんが進行している 可能性が高いといえます。 |
| 検査と診断 発見率の高い直腸診 前立腺がんの診断のためには、直腸診(直腸内指診)や超音波検査、血液検査などが行われます。 直腸診は、医師が肛門から直接指を挿入して、直腸前面に突出している前立腺を触診する検査で、 がんの有無を確認するのに最も簡単で、しかも発見率の高い方法です。前立腺に硬い部分があり、 表面が突出していたり、前立腺全体が大きくなって、石のように硬く、表面がでこぼこになっている 場合は、前立腺がんが疑われます。 直腸診で、少しでも前立腺がんの兆候があるときは、経直腸的超音波断層法による画像診断を 行うと同時に、腫瘍マーカー検査や前立腺針生検をします。 経直腸的超音波断層法は、肛門から直腸内に棒状の超音波発信装置(プローブ)を挿入して 前立腺の断層画像をみるものです。患者への負担が少なく、がんと思われる部分をすぐに生検 できることもあって、現在最も広く用いられている画像診断法です。断層画像で、前立腺が 左右非対称で周囲の被膜が切れている場合や、内部エコーが乱れているときは、 がんの疑いがもたれます。 腫瘍マーカーは、がんなどの腫瘍ができると血液中に現れる特殊な物質のことです。 腫瘍マーカー検査を行えば、ごく少量の採血でもスクリーニングができるため、早期発見や治療後の 再発のチェックなどに使われます。前立腺がんの腫瘍マーカーでは、PSA(前立腺特異抗原)と PAP(前立腺性酸フォスファターゼ)が高値を示せば、がんの確立が高くなります。 ・確定診断には生検が必要 がんかどうかは検査でほとんど診断がつきますが、確定診断のためには、さらに前立腺生検 (組織診)が必要です。特に前立腺がんの場合は、硬結に触れ、がんと思われたのが炎症性の ものであったり、肥大症だったりすることもあります。ほかの前立腺疾患との判別をしたり、細胞の 悪性度などを調べて治療に役立てるためにも、必要不可欠な検査といえます。 ・骨シンチグラフィーで転移を調べる がんと確定診断された場合、骨転移の有無を骨シンチグラフィーで調べます。 骨シンチグラフィーは、一般にアイソトープ標識リン酸化合物を静脈に注射し、約3時間後に シンチカメラで全身のシンチグラムを撮ります。X線写真で骨を写すより、骨シンチグラフィーのほが 早い時期から病変を写しだせることや、全身を1回で検査できることなどのメリットがあります。 転移のない正常なシンチグラムでは、全身の骨がほぼ同じ濃さで写りますが、転移がある部分は 濃く写ることから骨転移を診断できます。 ほかに尿道膀胱造影、排泄性腎盂造影(IVP)も実施されますが、このような画像診断で変化が みられる場合は、がんがかなり進行していると考えられます。 |
| 治療 転移のないがんの根治療法は全摘手術 前立腺がんの治療は、これまで男性ホルモンの供給を抑えるために、睾丸の摘出(去勢)や 女性ホルモンの使用などのホルモン療法が一般的でした。しかし、最近はがんの進行具合によって、 外科療法(手術)、放射線療法、薬物療法などさまざまな療法が行われています。 現在のところ、前立腺がんの唯一の根治治療は、がんの組織が前立腺だけにとどまっている 時期に前立腺を摘出してしまうことです。そこで、転移のない早期の前立腺がんに対しては、 前立腺がんに対しては、前立腺全摘手術を行います。 前立腺全摘手術は、全身麻酔で前立腺の精のうとともに摘出します。さらに、周囲にある 骨盤内リンパ節への転移を防ぐためにリンパ節郭清も行われます。この結果、膀胱と尿道が切断 されるため、膀胱頸部と尿道を縫い合わせ、治癒するまでの1〜2週間はカテーテルを尿道から 膀胱に挿入し、体外に尿を排出するようにします。 前立腺全摘手術ができず、がんが尿道を圧迫して排尿困難がひどい場合は、尿道からの 内視鏡手術を行って、前立腺の一部を切除し、尿道を広げるケースもあります。 なお、手術後の合併症として、インポテンスや尿失禁、下肢の浮腫(むくみ)などが起こります。 前立腺の全摘を行う際には、勃起に関係する神経をできるだけ傷つけないようにする神経保存 前立腺全摘手術を施すようになってきています。 下肢の浮腫は、リンパ節を郭清した結果、リンパ液の流れが悪くなることによって起こるものですが、 2〜6ヶ月ほどで自然に治ります。 ・進行がんには内分泌療法が最も有効 前立腺の発育や機能は、男性ホルモン(アンドロゲン)によって調整されているため、 前立腺がんもアンドロゲンの影響を受けています。 そこで、手術の適応外となることの多いステージCやDのようなケースでは、男性ホルモンの働きを 抑えるホルモン療法(内分泌療法)を中心に治療を行います。ホルモン療法は、80%の人に 何らかの効果がみられ、進行がんには有効な治療法です。 ホルモン療法には、男性ホルモンの主成分であるテストステロンをつくっている睾丸を摘出する 去勢術のほか、男性ホルモンの働きを抑制する抗男性ホルモン剤の投与、女性ホルモン剤 (エストロゲン)の投与などがあります。 去勢術は、かつては頻繁に行われていましたが、患者の心理面に影響することやホルモン剤が 進歩してきたこともあって、現在はすぐに去勢をすることは少なくなっています。 代わりに注目されてきたのが、睾丸からのテストステロンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト製剤の 投与です。LHは、性腺刺激ホルモンのことで、精巣を刺激し男性ホルモンの生成と分泌を促進 させます。 LH-RHは、その性腺刺激ホルモンを放出させる働きをもつホルモンで、普通は脳の視床下部から 分泌され、下垂体に作用してLHの合成と分泌を促しています。 しかし、大量のLH-RHを連続的に投与すると、LHの合成が分泌に間に合わなくなり、LHの分泌が 逆に抑制されてきます。その結果、テストステロンの分泌も抑制されて、前立腺のがん組織が 消滅します。 この理論に基づいて行われているのが、LH-RHアゴニスト製剤による治療です。 LH-RHアゴニスト製剤は、毎月1回皮下注射するだけで去勢と同じ効果が得られます。 また、エストロゲンなどほかのホルモン剤に比べ副作用が少ないことから、今後のホルモン療法の 中心になると思われます。 このほか、ホルモン療法ではあまり効果がみられなかったり、最初は有効でも何年かたつと 効果がなくなるケースでは、抗がん剤による化学療法が行われます。 また、骨盤や骨の転移巣に対してはX線やガンマ線を照射し、がん細胞を破壊する放射線療法も 行うことがあります。 放射線治療は、脊椎に転移があり、運動障害が生じる可能性が考えられる場合に、積極的に 実施されます。また、腰椎転移で両下肢にしびれがでたときなどに、早めに放射線治療を行うと、 麻痺を防ぐことができます。 骨盤照射は1ヶ月、骨転移巣では2週間前後の治療期間となります。 さまざまな治療法のなかで、ホルモン療法は前立腺がんに対して最も多く利用され、しかも ほかのがんでは考えられないほどの効果を上げます。しかし、ホルモン療法がまったく効かない ケースや、効果があって治療を続けていても再発してしまった進行がんに対しては、 各種の治療法を組み合わせた集学的治療が必要となります。 なお、ステージA1の偶発がんで、進行がきわめて遅い高分化腺がんの場合は、年齢などを 考慮して、手術も治療も行わず、2〜3ヶ月ごとに検査して経過を観察していくこともあります。 手術は、合併症を引き起こしたり、高齢者にはかなりの負担になることも考えられます。 治療に際しては、医師と十分に話し合って、納得のできる方法を選択することが大切です。 |
| 予防と日常生活の注意 検診による早期発見が何より大切 現在のところ、前立腺がんに対して決め手となるような予防法はありません。 前立腺がんの発症には、緑黄色野菜の摂取不足や過度の飲酒、高脂肪の食生活などが 関わっていると考えられています。そこで、日ごろから野菜や魚を積極的にとるように心がけ、 お酒はなるべく控えるようにしたいものです。 また、50歳を過ぎたら、定期的に前立腺の検査を受けるようにしましょう。 排尿障害や腰痛、坐骨神経痛などの症状がある人は、特に注意が必要です。こうした症状は、 年をとれば多くの人に現れるものですが、同時に前立腺がんを発見するうえで、大変重要な ポイントとなります。 年をとったからとあきらめたり、放っておいたりせず、早めに泌尿器科を受診して、原因を明らかに することが大切です。ほかのがんと同様、前立腺がんも早期発見こそが最も重要です。 ・術後は排尿への注意が必要 前立腺がんの手術をすると、程度の差こそあれ、ほとんどの人に排尿障害がみられます。 そこで、日常生活では次のような点に注意しましょう。 ・排尿は我慢せず、すぐにトイレに行くようにします。 ・水分は十分にとりましょう。 ・過労や夜更かしを避け、適度な運動と規則正しい生活を心がけましょう。 ・長旅やドライブなどで長時間座り続けるのはよくありません。また、外陰部の圧迫を避けるために、 できればオートバイや自転車には乗らないほうがよいでしょう。 ・下半身を冷やさないように心がけ、入浴で全身を温めるようにします。 このほか、骨に転移がある場合は骨折しやすいので、患部に負担がかからないように注意する ことが必要です。痛みがあるときは、患部を湿布したり、ごく軽いマッサージをすると和らぎます。 下半身にむくみがある場合には、就寝時に足を少し高くしたり、足先から大腿部に向けて軽く さすり上げるのも、よい解消方法です。 医師は、がんの進み具合や細胞の性質、心肺機能や腎機能などの状態、生活環境など、 さまざまな角度から十分に検討したうえで最善の治療法を組み立て、薬を処方されます。 がんの再発や進行を防ぐためにも、処方された薬の服用を忘れたり、勝手に治療を中止したり することのないようにしましょう。 また、治療中に行われる定期的な検査もきちんと受けるようにします。 |
| 早期がんでは完治も期待できる がんの広がり具合や細胞の悪性度などによって異なるものの、前立腺がんの、5年生存率は50%、 10年生存率は30〜40%とされています。ただし、早期がんで前立腺全摘術による 根治療法が行われた場合は、完全治癒が期待できます。 実際、根治手術を受けた場合の10年生存率は約80%となっています。 しかし、前立腺がんはかなり進行した状態で発見されることが多いため、ほとんどのケースで ホルモン療法に頼らざるを得ないのが現状です。また、一方で、新薬や新しい手術法が開発されて 治療法が確実に進歩改善されてきているのも事実です。 前立腺がんになった場合、高齢という理由から、治療に対して患者本人や家族が消極的になる ケースも少なくありません。しかし、より充実した毎日を送るためにも、病気に対して積極的に 立ち向かう気持ちで治療に臨みたいものです。 また、がんの早期発見のために検診は必要不可欠ですが、胃がんや大腸がん、子宮がんなどに 比べると、前立腺がんの検査システムは十分とはいえません。 人間ドックや集団検診などを含め、検査がより広く、積極的に実施されることが、今後期待されます。 |