食道がん
食道がんは飲酒や喫煙習慣のある人に多くみられます。悪性度の高いがんですが、
診断・治療技術の進歩に伴い完治するケースも増えています。


ヘルスチェック
こんな症状に注意!
・飲食物を飲み込むときに、胸につかえるような感じがありますか?
・胸のあたりに、いつも物がつかえている感じがしませんか?
・飲食物が飲み込みにくいですか?
・飲み込んだときに痛みがありませんか?
・胸が痛みませんか?
・からだがだるくありませんか?
どんな病気ですか?
60代の男性に発症するケースが多い
 食道は2層の筋肉でできた長さ約25cmの管で、咽頭(口の奥)の下から始まり、背骨の前を通って、
胃につながっています。食道は頸部、胸部、腹部の3部に区別されます。頸部と胸部上部は気管の
すぐ後方を、胸部の中部と下部は大動脈の前方を下行し、胸部と腹部を隔てる横隔膜の
食道裂孔というすき間を通り、腹部食道につながります。
 食道には、食道の入り口、気管が左右の気管支に枝分かれする部分(気管分岐部)、横隔膜の
食道裂孔の3ヶ所に生理的狭窄部とよばれる、くびれて細くなった場所があります。
 粘膜で覆われた内腔は通常は閉じていますが、食物が入ってくるとすぐ先の部分が開き、
食物が通過すると収縮して閉じるという蠕動運動を行い、食物を胃に送る働きをしています。
 食道がんの約80%は胸部食道に発生しています。食道がんの患者は男性が多数を占め、
女性の約5倍にのぼり、特に60代で発症するケースが多くみられます。社会の高齢化に
伴って、高齢の患者の占める割合が増えています。
 食道がんの患者数は、ほかの部位のがんと比べると、それほど多くはありません。ただ、消化器の
がんのなかでは、胃がんや大腸がんと比較して、診断が確定したり治療が行われてから5年たった
生存率が低く40%にも達していません。
 食道がんのがん細胞の増殖速度が速いこと、食道はりょう膜がないので、がんが周囲の組織に
広がったリンパ節やほかの臓器に転移しやすいことが生存率が低い理由です。そのほかに、
心臓や大動脈、気管・気管支などの重要な臓器と食道が接しているために手術が難しいもの
要因の一つです。
 診断や治療の技術が進歩し、食道がんが早期発見・早期治療されるケースも増えてきましたが、
がんの中でも比較的悪性度は高いといえます。
原因
喫煙と飲酒が大きな誘因に
 がんが発生する根本的な原因は明らかにされていませんが、食事を含めた生活習慣や文化的な
要因との大きなかかわりが指摘されています。食道がんの場合は、喫煙と飲酒、食事、環境発がん物質、
放射線などが主な誘因とされています。特に食道がん患者の約75%は喫煙と飲酒の習慣がある
ことから、この二つが重なると発生率が高くなるようです。
 お酒を飲むと、アルコールの刺激によって食道の粘膜が傷つき、粘膜に炎症が起こります。
その傷口にアルコールやタバコに含まれるニコチンやタールなどの発ガン性物質が侵入すると、やがて
正常な組織にがんが発生すると考えられます。
 1日の喫煙本数が多く、喫煙年数の長い人ほど喉頭がんや肺がんになりやすいとされていますが、
同じことが食道がんにもあてはまります。食道がんの患者のうち、毎日喫煙していた人は、喫煙習慣の
ない人よりも死亡率が2倍以上も高いという統計結果もあります。
 飲酒についてもさまざまな調査が行われ、ウイスキーやブランデーなどのアルコール濃度の高いお酒を
大量に飲む人ほど、食道がんになる危険性も高くなることがわかってきました。
 このほか、喉頭がん、咽頭がん、舌がんで治療を受けたことがあったり、家族に食道がんの患者が
いる人、また50歳以上の男性は、特に食道がんに気をつける必要があるハイリスク・グループと
されています。
症状
飲み込むときのつかえ感に注意
 食道がんの自覚症状として最も多くみられるのは、食物を飲み込んだときのつかえるような感じで、
食道の内腔があまり太くないために起こります。
 ほかのも、胸やけ、のどの奥や胸のあたりの異物感、胸痛、上腹部の鈍痛、嘔吐、少量の吐血、
全身のだるさ、食欲不振などの症状がみられるようです。
 がんが進行すると、これらの症状が重くなったり、食物が飲み込みにくくなったりしてきます。
初めは硬いものを食べたときにつかえる感じがあり、次第に軟らかい物や液体もつかえやすくなります。
最初から飲み込みにくさが現れる場合もあります。
 食道がんの初期には、自覚症状が現れないことも少なくありません。そのため症状を訴えて受診したとき
には、かなり進行しているケースも多くみられます。
 検査技術の進歩によって、無症状の早期がんが検診で発見されるケースも増えてきています。
食道がんが疑われるような症状が現れたときはもちろん、たとえ無症状でも定期的に検診を
受けることが大切です。
検査と診断
ルゴール染色液で早期発見が可能に
 がんの検査の目的は、がんの有無や形態、広がりの程度などを調べたり、治療効果を予測したり
することです。
 がんの有無によって、正常か異常かのふるい分けをするスクリーニングは、X線撮影検査と
内視鏡検査で行われます。
[上部消化管X線検査]
食道のX線検査は、食道、胃、十二指腸を調べる上部消化管X線検査のときに同時に行われます。
 最初に造影剤のバリウムを飲み、食道を通過するときの状態をX線で撮影し、粘膜のひだの様子や
隆起、陥凹などの観察が行われます。
 バリウムはすぐに流れさってしまうので、二重造影法がとられます。炭酸ガスを発生させる発泡剤を
飲んだり、口から管を入れて空気を送り込むことで食道を膨らませ、粘膜に付着したバリウムを観察する
方法です。より詳しく調べるために、透視台を動かしてさまざまな角度から撮影されます。
 検査は10分程で終わります。検査後はしばらくの間、腹部の張った感じが残りますが、
白いバリウム便が出れば解消されます。
[上部消化管内視鏡検査]
X線撮影検査で異常がみつかった場合には、内視鏡検査の対象となります。食道がんや胃がんに対しては
口から細い内視鏡を挿入して内腔を観察する上部消化管内視鏡検査が行われます。
 食道がんは、早期の段階では粘膜の表面の凸凹が少ないうえ、内腔が狭くて観察しにくいために、
ルゴール染色を用いた色素内視鏡検査法が行われます。この検査方法が開発されて以来、
早期がんの診断の精度は大きく向上しました。内視鏡を通して、咽頭炎の治療などに処方される
ヨードを含む消炎剤・ルゴールを内視鏡を通して食道の内腔に散布し、粘膜を染色する方法です。
 でんぷんを多く含む正常な粘膜は、ヨード・でんぷん反応によって褐色に染まりますが、がんなどの
病変部は黄白色になるので、その形や大きさ、数が一目でわかります。
 ただし、粘膜の炎症や潰瘍など、良性の病変でも黄白色になるので、慎重な判別が必要です。
特に色が白っぽく、健康な部分との境目がはっきりしていて、長径が10mm以上のときには、
がんの可能性が高くなります。
 内視鏡検査の検査時間は5〜10分程度です。
[超音波内視鏡検査(EUS)]
内視鏡と超音波診断装置(エコー)を組み合わせた検査です。体内の組織に超音波をあてると、
正常な部分とがんなどの異常な部分とでは反射率が異なります。その差をコンピューターで処理して、
画像化する方法です。
 従来の超音波検査では体外から超音波を発射していましたが、EUSでは、体内に挿入した内視鏡の
先端に超音波を発する装置をつけるので、病変部のより詳しい画像が得られます。がんが食道粘膜の
どのくらいの深さまで達しているか、食道にとどまらず、周辺のリンパ節に転移しているかどうかなどの
確認に役立つ検査です。
[CTスキャン、MRI]
CTスキャン(コンピューター断層撮影)は、からだの横断面が、MRI(磁気共鳴映像法)は縦、横、斜めなど、
あらゆる方向から断面が描き出さます。これらの検査は、周囲の臓器への広がり具合や、リンパ節、
肝臓などへの転移の状態を調べることを目的としており、進行した食道がんに対して行われます。
[病理組織検査(組織診)]
内視鏡検査のときにがんが疑われる部分の粘膜の一部を摘出し、顕微鏡で観察する方法で、
がんの有無のほか、進行度などもわかります。この検査によって、がんかどうかの最終的な
診断が行われます。
分類
表在がんと進行がん
 検査から明らかになったがんの形態や広がり具合によって、がんの分類が行われます。この分類に
基づいて治療法が選択されます。
 食道壁は粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層の4層からなる粘膜層と、輪筋層、縦筋層の
2層からなる筋層、および外膜によってできています。がんが粘膜層にとどまっていれば表在がん、
筋層に達している場合には進行がんとされています。また、表在がんのうち、リンパ節に転移していない
ものは早期がんとよばれます。
[表在がん]
表在がんは、X線撮影検査と内視鏡検査で得られた画像による凸凹の形や程度で分類します。
2mm以上の盛り上がりがある表在隆起型、盛り上がりが1mm程度までの表在平坦型、
病巣が粘膜の表面よりもへこんでいる表在陥凹型の三つです。このうち、最も多くみられるタイプは
表在陥凹型です。
 表在平坦型は粘膜筋板までにとどまっているケースが多いのですが、表在隆起型と表在陥凹型の
ほとんどは粘膜下層に及んでいます。がんが粘膜下層にまで達すると、リンパ節に転移している
可能性が高くなります。
[進行がん]
進行がんは、X線撮影検査の画像から隆起型、潰瘍限局型、潰瘍浸潤型、びまん浸潤型、その他の
5タイプに分けられます。
 隆起(盛り上がり)や潰瘍と正常な組織との境目がはっきりしていないもの、がんが周囲に浸潤
しているもの、潰瘍のへこんだ底の部分や隆起の上部の凸凹が激しいものほど悪性度が高いと
されます。周囲の組織や血管に及んでいたり、リンパ節への転移がみられます。
治療
早期の内視鏡的治療で食道を温存
 食道がんは進行が速く、周囲のリンパ節に転移しやすいため、がん病巣とリンパ節を広い範囲で
取り除く切除手術が主流でした。しかし、診断技術の進歩で食道がんの早期発見が可能になったこと
などから、内視鏡的粘膜切除術をはじめとして、よりからだへの負担が少ない治療法が行われる
ケースが増えています。
[内視鏡的粘膜切除術]
検査技術の進歩、なかでもルゴール染色法の開発により、まだ病巣が狭い範囲にとどまっている
早期のがんが発見されるようになりました。それに伴って普及してきたのが内視鏡的粘膜切除術です。
1980年代の後半にはじめて用いられて以来、早期がんの画期的な治療法として広く行われるように
なっています。
 この方法が適応となるのは、次のような条件にあてはまる場合とされています。
@がんが粘膜固有層までにとどまっているとき。
Aがんの長径が3cm未満のとき。
B病巣の広がりが食道内腔周囲の3分の2以下のとき。
C病巣の数が3〜4個のとき。
 また、がんが粘膜筋板や粘膜下層まで達しているケースでも、リンパ節への転移がない場合に
行われることもあります。
 内視鏡的粘膜切除術にはいくつかの方法がありますが、基本的な流れは同じです。
まず、口から挿入された内視鏡を用いてルゴール染色が行われ、病変部が確認されます。
次に病変部を盛り上げて切除しやすくするために、病変部のすぐ下にある粘膜下層に生理食塩水が
注入されます。そして、内視鏡の先端から出したスネア(ループ状の電気メス)を病変部にかけ、
高周波の電流を流して焼き切ります。
 この治療による出血はほとんどありません。治療の準備も含めて約20分で終わり、入院も半日から
1日ですむため、患者の負担の少ない治療法といえます。
[手術療法]
がんが粘膜筋板よりも深いところまで進行していたり、粘膜筋板や粘膜下層にとどまっていても
リンパ節に転移している場合には、外科的な切除手術の適応となります。一方、がんが食道以外の
臓器に遠隔転移している場合には、抗がん剤による化学療法や放射線療法など、手術以外の方法の
対象になるケースが多いようです。
 食道は頸部から腹部にまたがっているために、手術も開胸・開腹を伴う大掛かりなものとなります。
 手術の目的は、病変部の切除はもちろん、がんの再発や転移の可能性をできるだけ少なくすること
なので、広範囲にわたる切除手術が行われます。がんのある食道の部分だけでなく、胸部と腹部の
二つの領域のリンパ節も取り除く2領域リンパ節郭清術が一般的です。頸部・胸部・腹部の三つの
領域のリンパ節も同時に取り除く3領域リンパ節郭清術という方法がとられることもあります。
食道が切除された後は、一般的には胃が頸部にまで吊り上げられて残った食道に縫合され、
食道のかわりとなる食道再建術が行われます。3領域リンパ節郭清術や術後管理の進歩により、
治療効果は大きく改善されました。
 なお、開胸の影響として、肺活量などが低下したり、傷の痛みが残ることがあります。
[胸腔鏡下切除術]
外科的な切除手術と同様、がんが粘膜筋板よりも深い部分にまで達したがんに行われるケースが
ほとんどです。
 胸部の正面から直径5〜10mm程度の5〜7個の孔があけられ、それらの一つから胸腔鏡が
挿入されます。胸腔鏡につながるテレビモニターに胸部の状態が映し出されるので、医師はそれを
見ながら、残りの4〜6個の孔から挿入された特殊な手術器具によって手術を勧めます。
 外科的な切除手術に比べて出血量が少なく、術後の痛みや肺機能の低下が抑えられるといった
メリットがあります。
[放射線療法と化学療法]
高齢で手術の負担に耐えられない、ほかの病気があって全身状態が悪い、あるいは切除できないほど
広範囲に転移しているといったケースでは、放射線療法や化学療法が行われます。
二つが組み合わされることもあります。
 食道がんは、ほかの部位のがんよりも放射線療法の効果が高いため、早期がんを放射線照射で
治してしまうケースもあります。
 一方、進行がんに対して、手術の前に抗がん剤や放射線を使ってがんを小さくしたり、リンパ節に
転移しているがん細胞をある程度殺してから手術を行う術前補助化学療法、術前補助放射線療法が
選択されることもあります。また、手術前後に放射線療法と化学療法が並行して用いられるケースも
みられます。しかし、術前療法が行われているうちにがんが進行してしまう可能性も考えられるので、
これらの補助療法が手術後に行われる場合が多いようです。
 手術療法と抗がん剤の投与、放射線照射などのいくつかの治療法を組み合わせて、相乗効果によって
治療効果を高める方法を集学的治療とよんでいます。
治療後の生活上の注意
年1回の内視鏡検査を継続
 食道の手術後は、1週間から10日たてば食事ができるようになります。最初は軟らかくて消化のよい
ものを中心にとるようにします。その後、体力が順調に回復すれば、手術後3週間から1ヶ月ほどで
退院することができます。
 手術後に補助療法が行われると、抗がん剤や放射線の副作用で食欲不振が続くことがあります。
その場合には、普通に食事ができるようになるまで、鼻から細い管を腸まで挿入したり、
腹部に孔をあけて直接腸に管を挿入して、栄養が補給されます。
 退院後は食事の内容と摂取量や、体重の推移を記録しておくとよいでしょう。
咳や痰が出たり、息切れがしたり、便秘や下痢が続くといった体調の変化にも気をつけましょう。
 初めの3ヶ月間は胸部と腹部のX線撮影検査、血液検査や尿検査が行われるので、主治医の指示に
従うようにしてください。
 手術後の再発は1年以内に起こることが多いため、その後も1〜3ヶ月に1回のペースで通院し、
再発や転移の有無を調べるための検査を受けます。
胸部X線撮影検査、頸部と腹部の超音波検査、上部消化管内視鏡検査、CTスキャン、
骨のシンチグラフィー、尿検査、便の検査などは、手術後1年目以降も、年1回は検査を受ける
必要があります。
まとめ
胃がん検診時には食道検査も受ける
 内視鏡的粘膜切除術の普及によって、早期食道がんの治療は負担の少ない、より安全なものに
なってきました。それでもこの方法の対象となるのは、あくまでも早期がんの場合です。
食道がんに限らず、がんの早期発見のためには定期的に検査を受けることが大切です。特に食道がんの
発生率が高いとされる50歳以上の男性で喫煙や飲酒をする人は、胃がんの定期検診時に
食道がんの検査も受けるようにしましょう。
 食生活については、次の点を心がけるようにしましょう。
・バランスのとれた食事を心がけます。
・暴飲暴食は控えます。
・脂肪分をとりすぎないようにします。
・緑黄色野菜をたっぷりとります。
・塩辛いものは控えめにし、熱い料理は適度に冷ましてから食べます。
・魚や肉などの焦げた部分は避けます。
 また、過度の飲酒、特にアルコール濃度の高いお酒の飲みすぎやタバコの吸いすぎにも注意が
必要です。日ごろからウォーキングなどの適度な運動を続けることも、食道がんをはじめとする
あらゆるがんの予防につながります。

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