膵炎
お酒の飲みすぎや胆石などが原因で、膵臓に炎症が起こる病気です。
30〜60代の男性に多くみられます。
| どんな病気ですか? 膵臓に炎症が起こる 膵臓には、外分泌と内分泌という二つの大きな働きがあります。外分泌機能は、消化液である 膵液を分泌して十二指腸へ送り込み、食物の消化・吸収を助けるものです。膵液には、 炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼと いった消化酵素が含まれています。一方、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを分泌して、 血糖値を調節するのが内分泌機能です。 膵炎は、膵臓に炎症が起こる病気で急性膵炎と慢性膵炎に大別されます。 急性膵炎、慢性膵炎ともに、アルコールの過剰摂取や胆石などが原因で発症することが 多い病気です。 急性膵炎は、消化酵素の働きが異常に高まって、膵臓の組織を消化してしまうために 起こると考えられています。 通常、膵液は胆のうから分泌された胆汁と混ざり合って十二指腸に流れ込み、そこではじめて 活性化されます。ところが、何らかの原因で膵液の流れがとどこおると、膵臓の膵管内に 膵液がたまるようになり、そこに十二指腸から逆流してきた胆汁が混ざって、膵臓内で 活性化してしまうのです。 急性膵炎は軽症の場合、通常1週間ほどで治りますが、重傷のケースでは全身の臓器の 働きが低下したり、ショック状態に陥って、生命にかかわることもあります。 男性は30〜60代、女性では50〜70代に発症しやすい傾向がみられます。 慢性膵炎は、膵臓の炎症が長期間繰り返されることによって膵臓の細胞が次第に破壊され、 代わりに線維が増えて膵臓が硬くなってくる病気です。膵臓の組織が破壊されるに従って、 内分泌・外分泌機能が少しずつ低下し消化不良を起したり、糖尿病を招くなど、全身状態に 大きな影響を及ぼすようになります。 慢性膵炎は、50〜60代に起こりやすく、男性に多い点が特徴です。 |
| 急性膵炎の原因 胆石やお酒の飲みすぎに起因する 急性膵炎を引き起こす主な原因の一つは、胆石です。胆のうから流れ出た胆石が、 胆管と膵管の合流地点であるファーター乳頭につまると、膵液がうまく流れなくなって 膵臓内にたまります。その結果、膵臓が自己消化を起して急性膵炎を発症します。 お酒の飲みすぎも、急性膵炎を招く大きな要因です。アルコールによる急性膵炎の 発症メカニズムは、完全に明らかになっていませんが、多量の飲酒の影響で膵臓にむくみが 生じ、膵管が狭くなって膵液の流れがとどこおると考えられています。 また、アルコールの作用によって、膵臓の細胞そのものがダメージを受けるという説もあります。 このほか、ウイルスの感染や高脂血症などが引き金となったり、原因不明で突発的に起こる ケースもみられます。 |
| 急性膵炎の症状 上腹部に突然激痛が現れる 急性膵炎の最も典型的な症状は、上腹部に生じる突然の激しい痛みで、吐気や嘔吐を 伴うことが多いようです。背中や腰、腹部全体に痛みを感じることもあります。 胆石などによる腹痛は、嘔吐すると和らぐケースが多いのに対し、急性膵炎の痛みは逆に 強まりやすいとされています。また、背中を丸めて横になったり、膝を抱えて前にかがむ姿勢を とると、痛みが軽減する点も特徴です。 急性膵炎は、激しい腹痛で発症することがほとんどですが、なかにはさほど痛みを覚えない 場合もあります。こうしたケースは、痛みに対する感受性が低下している高齢者に多いものです。 まれに、かなり重い炎症を起こしているにもかかわらず、まったく腹痛が現れないこともあり、 急性無痛性膵炎とよばれます。 炎症が軽い場合は、2〜3日で腹痛は治まってきますが、病変が広がって重症化すると 痛みが長引きます。また、ショック状態に陥ったり、さまざまな臓器の機能障害を招く多臓器不全 が起こることもあります。 |
| 急性膵炎の検査と診断 血液検査と画像検査で確定 急性膵炎の診断は、血液検査や尿検査、画像検査によって行われます。 急性膵炎は、軽症であれば経過は比較的良好ですが、重症の場合は死に至る危険が高く なります。軽症と重症では、治療方法が異なってくるので、診断の際には重症度も判定します。 膵臓に炎症があると、膵液に含まれている消化酵素のアミラーゼやトリプシンなどが 血液や尿の中に流出してきます。したがって、血液と尿を採取して調べ、アミラーゼなどの 消化酵素の量が増えていれば、ほぼ診断がつきます。 診断を確定するためには、腹部超音波(エコー)検査やCT(コンピューター断層撮影)検査が 必要です。特にCT検査は、病変の広がり具合、腹部や胸部の変化などを正確にとらえることが できるので、急性膵炎の診断と重症度の判定には欠かせません。 急性膵炎は、病変の進み具合によって、軽症、中等症、重症の三つの段階に分けられます。 軽症では、病変は膵臓の周囲にとどまっています。食欲の低下や全身倦怠感が数日間続き、 食事や飲酒の後に上腹部の痛みが現れることが多く、むかつきや嘔吐が起こる場合もあります。 触診の際に、左上腹部を押すと痛みが生じ、腹部超音波検査を行うと膵臓全体に腫れが 認められます。血清アミラーゼと尿中アミラーゼの値も上昇します。 中等症になると、病変が腹膜組織や腹腔全体に広がります。発熱や全身倦怠感が起こり、 血液検査の異常値も高くなります。また、血液中に流出した消化酵素のためにさまざまな 臓器・組織の壊死が起こることがあり、わき腹や下腹部に皮下出血による出血斑が現れる ケースもみられます。 重症になると、全身に病変が及び、消化管障害や腹膜炎、急性腎不全、呼吸不全、意識の 低下といった重い症状が現れます。検査数値にみられる異常も顕著になります。 胸部X線検査では胸水の貯留がみられ、腹部X線検査を行うと、小腸内にガスが たまっているのがわかります。 なお、軽症の死亡率は10%以下であるのに対し、重症では50〜70%にのぼります。 また、急性膵炎全体の死亡率は20%前後と推定されています。 |
| 急性膵炎の治療 薬物療法が中心になる 急性膵炎は、重症になると生命にかかわるので、軽症のうちにできるだけ早く治療を行う 必要があります。 軽症の場合は、まず絶飲・絶食をして消化酵素の分泌を抑え、膵臓に負担がかからないように します。その際、一定の栄養状態を維持するために、点滴で水分や電解質を補給します。 腹痛や背部痛などに対しては、抗コリン剤の臭化ブチルスコポラミンや、中枢性鎮痛剤の 塩酸ペチジンなどが用いられますが、痛みがあまり激しい場合は、麻薬性鎮痛剤の モルヒネが使用されるケースもあります。 血液中に消化酵素が流出すると、呼吸不全や腎不全といった合併症を引き起こすことが あるので、アプロチニン製剤、メシル酸ガベキサート、メシル酸カモスタットなどの 膵臓素阻害剤が使用されます。感染症を防ぐために、抗生物質の投与も行われます。 軽症、中等症のほとんどは、こうした治療によって1週間前後で軽快します。 しかし、重症の場合は、さまざまな臓器に障害が起こるので、集中治療室での全身管理が 必要になります。特にショック状態に陥ったケースでは、アプロチニン製剤と並行して、 抗炎症剤の副腎皮質ホルモン製剤が大量に投与されます。 このほか、重症の急性膵炎に対して行われる特殊な治療法として、腹膜かんりゅう法が あげられます。 腹膜かんりゅう法、カテーテルという細い管からおなかの中に腹膜透析液を注入し、腹腔内の 有害物質を排除する方法です。このような治療によって、悪化していた全身状態がかなり 回復してくることがあります。 急性膵炎では、こうした内科的治療が基本ですが、胆石が原因で病状が改善されない場合は、 胆石を取り除くために、開腹して胆管を切除したり、胆のうを摘出する手術が必要になる ケースもみられます。また、中等症や重症で、内科的治療を試みても病状が改善しない場合の ほか、膵のう胞や膵腫瘍といった合併症が起こっている時も、膵臓の切除手術などの 適応となる場合があります。 |
| 慢性膵炎の原因 過度の飲酒によるケースが大半 慢性膵炎のほとんどは、アルコールの過剰摂取と胆石や胆のう炎といった胆道の病気が 原因で起こっています。 特に、大量飲酒の習慣がある人に発症するケースが大半で、原因の50%以上を占めています。 実際、慢性膵炎は、10年以上にわたって大量飲酒を続けている中年以降の男性に多く みられます。近年は、アルコールの消費量の増加に伴って、発症者のうち大量飲酒者が占める 割合はますます高くなってきています。 ただし、アルコールの過剰摂取だけで慢性膵炎が引き起こされるというわけではなく、 食生活などのほかの要因もからみ合って発症すると考えられています。 また、原因不明の突発性のケースも少なくないとされ、約30%を占めています。 |
| 慢性膵炎の症状 腹痛や背部痛を繰り返す 慢性膵炎は、いったん発症すると、長期にわたって少しずつ進行し続けるため、病気の 初期と末期では症状がかなり異なります。 最も多くみられる症状は腹痛です。急性膵炎の腹痛は激痛となるのに対して、慢性膵炎では 鈍痛が特徴です。また、たいていの場合、背部痛を伴います。このほか、吐気や嘔吐、 上腹部の重苦しさ、腹部の膨満感、食欲不振、全身倦怠感などや、黄疸が現れることも あります。 こうした症状は、外分泌機能の障害の程度が軽い時期に起こりやすいもので、病気が進行する につれて腹痛はあまりみられなくなり、外分泌機能の低下に起因する消化吸収障害によって、 下痢や体重減少が生じてきます。 また、内分泌機能にかかわる、膵臓のランゲルハンス島とよばれる細胞群にも病変が及ぶと、 血糖値を調整するインスリンやグルカゴンなどのホルモンが十分に分泌されなくなって、口渇、 多飲、多尿といった糖尿病の症状を招くようになります。血糖値がうまくコントロールされなく なるため、意識の混濁や昏睡がみられることもあります。 まれに、症状が急激に悪化して、重症の急性膵炎と同じようにショック状態に陥ったり、 腎不全や心不全などを起すケースもみられます。 |
| 慢性膵炎の検査と診断 超音波検査やCTで病気を鑑別 慢性膵炎の診断のためには、血液中や尿中に流出したアミラーゼをはじめとする消化酵素の 量の測定、膵外分泌機能検査、膵内分泌機能検査、画像検査などが行われます。 一般に、膵臓に炎症が起こると、血中アミラーゼの値は上昇します。しかし、慢性膵炎では、 急性膵炎に比べると上昇の度合いが顕著ではなく、腹痛を起していても異常値を示さない 場合があります。そのため、血中アミラーゼの検査値は診断の参考にはなりますが、これだけで、 慢性膵炎と確定することはできません。 尿検査では、膵液に含まれている消化酵素を分解するPFDという試薬を飲んで、分解産物の PABA(パラアミノ安息香酸)が尿中に排出された量を測定します。これはPFD(BT-PABA)試験と よばれる検査で、膵臓の外分泌機能の状態がおおよそわかります。 確定診断のためには、腹部超音波検査、CT検査、ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管撮影) 検査といった画像診断が不可欠です。 超音波検査やCT検査では、膵臓の形や、膵臓にできる結石である膵石の有無なども 調べることができます。 ERCP検査は、膵管に造影剤を注入し、内視鏡で膵管の状態を調べるものです。口から 挿入した内視鏡を、胃から十二指腸の入り口部分まで送り込み、そこから膵臓内へ進めます。 膵管の狭窄や拡張といった形状の変化、分岐した膵管の異常などをはっきりととらえることが できる検査です。 最近は、MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)検査も行われるようになってきました。これは、 MRI(磁気共鳴映像法)検査による画像を利用するもので、造影剤や内視鏡を使わずに胆のうや 膵管の状態を観察できるので、患者の肉体的負担が少なくてすみます。 このような画像検査によって、膵臓の状態に変化や異常がみられる場合、慢性膵炎と 診断されます。 なお、慢性膵炎のなかには、腫瘤形成型慢性膵炎という特殊なタイプがあり、この病気が 疑われるときは、膵がんとの鑑別が重要になります。体外から穿刺針を刺して膵臓の組織を 少量採取し、顕微鏡で調べる膵生検などによって鑑別が行われます。 |
| 慢性膵炎の治療 薬物療法や手術などが行われる 慢性膵炎は病変の広がり具合によって症状が異なるので、それぞれの病状に応じた治療が 行われます。また、いったん破壊された膵臓組織の回復は望めないので、炎症を抑えたり、 病気の進行を防いで、残された機能を温存することが治療の主眼となります。 腹痛が激しいときは、急性膵炎と同様、絶飲・絶食、点滴による栄養補給、抗膵酵素剤の 投与などが行われます。 腹痛が現れているときはもちろん、痛みが治まって病状が落ち着いている時期も、禁酒を 守り、食事からの脂肪の摂取量を控えめにする必要があります。 また、症状の再発を防ぐために薬物療法も行われます。薬物療法では、フェニペントール製剤や 抗コリン剤などが用いられます。フェニペントール製剤は、外分泌の機能障害によって低下した 消化・吸収の働きを補う効果がみられます。抗コリン剤は、胃酸や膵液の分泌を抑制することに よって膵臓の安静を保つと共に、膵管内圧を低下させて、膵液の流れを改善する作用があります。 このほか、胃酸分泌抑制剤、H2受容体拮抗薬などが用いられるケースもみられます。 薬物療法の効果を上げるためには、慢性膵炎を引き起こした原因をとり除くことが大切です。 特に、アルコールの摂取は病気の経過を大きく左右するので、必ず禁酒を守りましょう。 病気が進行して合併症が生じた場合は、それらに対する治療も必要になります。 最も多くみられる合併症は糖尿病です。慢性膵炎では、外分泌機能の低下による消化吸収 障害から体重減少や栄養不良を招くケースが多いため、通常の糖尿病の治療のように 食事制限を行うことが困難です。そこで、インスリンの投与による治療が主体となります。 慢性膵炎に起因する糖尿病では、低血糖による昏睡などからの生命の危険を招く場合が あるので、医師の指導のもと、血糖値をきちんとコントロールすることが必要です。 膵石があるケースでは、体外から衝撃波をあてて石を細かく砕く体外衝撃波結石破砕法などに よって治療します。 慢性膵炎では、内科的治療が基本となりますが、腹痛などが薬物療法で軽減しない場合や、 胆道および十二指腸の狭窄・閉塞、膵のう胞を伴うケース、膵がんとの鑑別が困難なケース などでは手術が適応されることがあります。 例えば、膵液の流れがとどこおり、膵管が拡張して痛みが軽減しないといった場合は、 膵管を途中から十二指腸へつなぐ吻合術が行われます。 慢性膵炎は、発症原因によって経過が大きく異なってきます。アルコールによるケース以外の 慢性膵炎の場合は、原因を取り除いたり、食生活を改善すれば仕事を続けることも出来ます。 しかし、アルコールが原因の場合は、飲酒が習慣になっていいる人が多いため、治療によって 症状が治まっても再び飲酒をして再発を繰り返すケースが少なくありません。 慢性膵炎を発症したら、日常生活の自己管理を徹底し、定期的に検査を受けて合併症の 早期発見、早期治療に努めることが大切です。 |
| ワンポイントアドバイス 膵炎を起した人の食事のとり方 膵臓の安静を図り、症状を改善するためには、食事療法も重要な治療の一つです。 病状に応じて適切な食品と摂取量を選択し、栄養状態を良好に保つことが大切です。 なお、急性膵炎、慢性膵炎ともに禁酒が原則です。 ・急性膵炎 [脂肪] 脂肪は膵臓への刺激が最も大きく、膵液の分泌量や濃度が増すことがわかっています。 病状が落ち着いても、脂肪を多く含んだ食品を食べると痛みが再発することがあるので、 完全に治癒するまでは1日の脂肪摂取量を20〜30g以下に抑えます。 [たんぱく質] たんぱく質の多い食品は膵液の分泌を高めるため、症状が著しいときは摂取量を厳重に 制限します。回復するに従って、白身魚や豆腐といった良質のたんぱく質食品から摂取を 開始し、膵臓の機能回復を図ります。 [糖質] 糖質は、脂肪やたんぱく質と違って膵液分泌の刺激とはなりません。たま、膵臓から分泌される 消化酵素が減少しても十分に消化・吸収されるので、おかゆやうどんなどで栄養を補給すると よいでしょう。ただし、症状が激しい時期は1回にとる量は少なめにします。 [嗜好品など] コーヒーなどのカフェイン飲料、炭酸飲料、香辛料は食欲を増進させる半面、膵液の分泌を 促進させるので、摂取量に注意してとります。また、味付けを濃くすると膵液の分泌が高まるので、 薄味を心がけましょう。 [ビタミン類] 脂肪を控えると脂溶性ビタミンが不足しがちになるので、必要に応じてビタミンA、D、E、Kを含んだ 総合ビタミン剤を服用します。 ・慢性膵炎 [たんぱく質・糖質] 基本的には急性膵炎と同じですが、症状が治まっている安定期には、たんぱく質や糖質の 摂取量を少しずつ増やします。 [ビタミン類] 軟らかく煮込んだ野菜料理や、ビタミンCの豊富な果物を積極的にとるようにします。 [摂取エレルギー] 高脂血症は膵炎の誘因となることがあるので、動物性脂肪は控えめにとり、1日の摂取 エネルギーに注意して標準体重を維持するようにします。また、糖尿病などの合併症がある 場合は、病状に応じて摂取エネルギーを調整することが大切です。 |
| まとめ 治療後の自己管理が大切 急性膵炎は、早期に適切な治療が行われれば、膵臓にほとんどダメージを残さずに完治します。 しかし、大量飲酒を続けたり、胆石を放置するなど、急性膵炎を発症した原因をそのままにして おくと再発することがあります。再び腹痛が起こったときは、早めに受診しましょう。 急性膵炎を繰り返していると膵臓の壊死を招き、やがては慢性膵炎に移行します。 暴飲暴食を避け、禁酒をして、再発を防ぐように心がけましょう。 また、いったん慢性膵炎を発症すると、破壊された膵臓機能を元に戻すことはできません。 膵臓の機能をそれ以上低下させないために、禁酒を守り、規則正しい生活を送るようにしましょう。 |