心筋症
心臓のポンプ作用を担う心筋に障害が起こる病気です。心筋が肥大する肥大型、
心筋が薄くなる拡張型、心内膜が厚くなる拘束型などに分けられます。


どんな病気ですか?
心筋に原因不明の障害が起こる
 心筋症は心臓の筋肉に障害が起こる病気で、心機能障害を伴う心筋疾患と定義されていますが、
はっきりとした原因が特定できないケースが大半です。
 先天性心疾患や虚血性心疾患といったほかの心臓の病気に比べると発症頻度は少ないのですが、
男性には女性の1,5倍ほど多くみられます。心筋症には、肥大型心筋症、拡張型心筋症、
拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症の四つがあります。
 肥大型心筋症は、主に左心室の筋肉が内側に向かって肥大し、心室の内腔が狭くなった状態です。
ときには左心室、右心室の両方の心筋が肥大するケースもみられます。
 拡張型心筋症は、心室の収縮機能が低下し、心臓の内腔が拡大してしまう状態です。
不整脈やうっ血性心不全をきたしやすく、肥大型心筋症に比べると予後がよくありません。
 拘束型心筋症は、心臓の内側を覆う心内膜が肥厚して硬くなり、心室が拡張しにくくなってくる
状態です。心内膜の厚さは、ときには数ミリに達することもあります。また、心室に血液が流入しにくく
なるために、心房に血液がたまって拡大してきます。
 不整脈原性右室心筋症は、1995年にWHO(世界保健機構)の分類に基づいて、
はじめて加えられた心筋症です。
種類と症状
家族内発症がみられるものが多い
 心筋症は病態によって、肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症に
分類されますが、遺伝との関係が疑われるものもあります。
・肥大型心筋症
 肥大型心筋症は、心筋が肥大する部位によってさらに分類されます。
心室中隔の中部で大動脈弁に近い部分が著しく肥大するケースは閉塞性肥大型心筋症といいます。
 左心室壁の全体が肥厚する均等肥大型心筋症、左右の心室を仕切っている心室中隔の前面
だけが厚くなる非対称性中隔肥大型心筋症、心臓の下端にあたる心尖部が肥大する
心尖部肥大症は、非閉塞性肥大型心筋症とよばれます。
 肥大型心筋症は、家族内で発症することが多く、遺伝との関わりが推測されていますが、
はっきりとした原因はわかっていません。
 肥大型心筋症では、心臓の収縮機能は良好に保たれていますが、心室壁の肥大に伴って
拡張しにくくなってきます。そのため、左心室に十分に血流が流入せず、全身に送り出される血液の
量が減少することによって突然心停止が起こることがあります。
 また、閉塞性肥大型心筋症では、左心室から大動脈への出口が狭くなるため、血液が十分に
送り出されなくなります。
 肥大型心筋症の大部分は自覚症状に乏しく、健診で偶然発見されることが少なくありません。
自覚症状がないまま病状が進行して、突然死を招くケースもみられます。
特に30歳以下の若い人では、運動中の突然死が多いとされています。ときには動悸や呼吸困難、
胸部圧迫感、めまい、失神発作などの自覚症状が現れることがあるので、気になる症状が
みられたら早めに受診することが重要です。
・拡張型心筋症
 拡張型心筋症の原因ははっきりわかっていませんが、患者の約20%は同じ家族系内で
発症していることから、遺伝的素因が深く関与していると考えられています。
また、ウイルスの感染によって心筋に炎症が起こるウイルス性心筋炎の後に、拡張型心筋症へ
進展するケースも多いことから、ウイルス感染とのかかわりが指摘されています。
 このほかの誘因として、高血圧、アルコールの過剰摂取、内分泌や代謝異常による病気、
妊娠や出産、栄養障害などもあげられます。
 拡張型心筋症では、血液を送り出すポンプ機能が低下しているために心臓に血液がたまり、
肺から血液が流入できなくなって、肺や静脈にも血液がたまってきます。
 その結果、動悸や呼吸困難、疲労感、むくみ、不整脈、胸部圧迫感といった症状が現れることが
多く、重症の場合は、夜間就寝中に呼吸困難を起したり、咳や血痰がでるようになります。
また、皮膚が青白くなったり、手足の冷えや頚静脈の腫れなどが現れ、ときには失神や突然死を
招くケースもみられます。心臓の内腔でよどんだ血液が固まって血栓ができたり、
はがれた血栓が脳の血管などにつまって脳梗塞を引き起こすケースも少なくありません。
・拘束型心筋症
 拘束型心筋症では、初期には無症状のこともありますが、病気が進行するにつれて心臓に
血液が流れ込みくくなり、肺に血液がたまって、呼吸困難や動悸、胸痛などが現れてきます。
 各臓器にも血液がうっ滞して、全身倦怠感、頚静脈の腫れ、黄疸、うっ血性肝硬変、腹水などの
症状がみられるようになります。
 重症の場合は、右心室から右心房への血液の逆流を防ぐ三尖弁がきちんと閉じなくなる
三尖弁閉鎖不全症を合併したり、心房細動などの不整脈がみられ、さらに病状が進めば
心不全を招きます。
 拘束型心筋症は、肥大型心筋症や拡張型心筋症に比べ、発症数が少ないまれな病気です。
・不整脈原性右室心筋症
 不整脈原性右室心筋症は、右心室の心筋細胞などが線維化して硬くなったり、脂肪がしみ込んで
くる病気で、不整脈や突然死をきたすことが多いといわれています。
 遺伝子の異常や心筋炎が誘因と考えられています。
検査と診断
心電図やエコーで確定
 心筋症の診断には、胸部X線撮影検査、心電図検査、心音図検査、心エコー検査、モニター画面上
に血流を色で示すカラードップラー法を用いた心エコー検査、心臓カテーテル検査などが行われます。
 なかでも心電図検査や心エコー検査は、心筋症の確定診断のために欠かせません。
心筋を少量切り取って、顕微鏡で観察する心筋生検が行われることもあります。
 心電図による波形の変化のほか、心エコー図で心室中隔の肥厚や僧帽弁の運動異常などが
みられる場合に、肥大型心筋症と診断されます。
 肥大型心筋症では、閉塞型か非閉塞型かを判別することも非常に重要です。
閉塞型と非閉塞型では治療法がまったく違うだけでなく、経過も異なってくる可能性があります。
 拡張型心筋症の場合、多くは胸部X線写真によって心臓全体が拡大していることがわかります。
また、心電図で拡張型心筋症に特有の異常波や不整脈に伴う特徴的な波形がみられ、心エコー図で
心室内腔の拡大と心室壁の収縮運動の低下が確認でき、ほかの器質的心疾患の可能性が
否定された場合に、拡張型心筋症と診断されます。
 虚血性心疾患と鑑別するために、心臓や冠動脈にカテーテルという細い管を通して造影剤を
注入し、X線撮影をする心臓カテーテル検査も行われます。
 拘束型心筋症の場合、心電図に上室性期外収縮や心房細動といった不整脈特有の波形が
現れますが、拘束型心筋症だけに特徴的な変化はみられません。
 胸部X線撮影検査では、軽症のうちは特に変化は現れませんが、重症になると肺のうっ血、
胸水貯留、左心房の拡大、右心室あるいは右心房の拡大などが確認できます。
拘束型心筋症では、心臓カテーテル検査も診断の手がかりとなります。
 心臓をとりまく心膜が硬くなって心臓が拡張しにくくなる収縮性心膜炎と、拘束型心筋症を
鑑別するために、心エコー検査、CT検査、MRI検査なども行われます。
 不整脈原性右室心筋症では、心電図検査で不整脈特有の波形がみられたり、画像検査で
右心室の線維化が認められます。
心不全の重症度分類
 全身に血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下した状態を心不全といい、心筋症をはじめとする
さまざまな心疾患が原因となります。心不全の重症度の判定については、ニューヨーク・ハート・
アソシエーション(NYHA)による分類が一般的に使用されており、症状による機能分類と、
検査結果に基づく客観的判断が併用されます。
機能分類
T度 心疾患をもっているが、身体活動に制限はなく、通常の身体活動では疲労、動悸、
呼吸困難、狭心痛が生じない
U度 心疾患のために身体活動に少し制限はあるが、安静にすると楽に生活ができる。
通常の身体活動で疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛が生じる。
V度 身体活動に強い制限があるが、安静にすると楽に生活ができる。通常以下の身体活動で
疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛が生じる。
W度 心疾患があり、どんな身体活動の際にも苦痛を伴う。心不全、狭心症の微候が安静時
にもみられることがある。どんな身体活動でも苦痛が増強する。
客観的判断
A 他覚的に心血管疾患が認められない
B 他覚的に軽度の心血管疾患が認められる
C 他覚的に中等度の心血管疾患が認められる
D 他覚的に重度の心血管疾患が認められる
治療
薬物療法などで症状を抑える
 心筋症の治療では、現れた症状を薬で抑える薬物療法が主体となります。
・肥大型心筋症
 肥大型心筋症の原因は、現時点では不明な点が多く残されています。そのため、根本的な
治療法は確立されておらず、拡張機能障害や不整脈などの症状に対する対症療法が基本と
なります。また、肥大型心筋症では突然死を招く危険が高いので、その予防も重要です。
 左心室の流出路狭窄がみられる閉塞性肥大型心筋症では、主に交感神経βー遮断剤と
カルシウム拮抗剤が用いられています。交感神経βー遮断剤は、左心室を広がりやすくするだけで
なく、頻脈の改善、胸痛や息切れといった自覚症状の解消にも有効とされています。また、
カルシウム拮抗剤は、心筋の収縮運動を低下させることなく、拡張機能だけを改善させる効果が
期待できます。ただし、カルシウム拮抗剤は、房室ブロックや心房細動などの重篤な不整脈を
誘発したり、心不全を悪化させることがあるので、経過を観察しながら慎重に投与が行われます。
 心電図検査で心室頻脈などの不整脈が確認された場合は、突然死につながる可能性があるので、
不整脈治療剤による治療が必要です。
 一方、非閉塞性肥大型心筋症で、心室の拡張機能だけに支障が生じているケースでは、
カルシウム拮抗剤が用いられます。収縮機能、拡張機能の両方に障害が起こっている場合は、
心筋の収縮力を高める作用がある強心剤のジギタリス製剤や、体内にたまった余分な水分の
排出を促す利尿剤が使われます。
 薬物療法を行っても症状が改善されないときは、人工ペースメーカーの埋め込みや手術が
適応されます。
 肥大型心筋症の手術としては、肥大した心筋を切除する心室中隔心筋切除術や、左心室から
大動脈に至る血液の流出路を広げる心室中隔心筋切開術などがあげられます。
 肥大型心筋症の5年生存率は約92%、10年生存率は約80%との調査報告があり、
一般に良好な経過をたどるといえます。ただし、心電図に心房細動や心筋梗塞の微候が現れる
ケースや病状の進行が早いケースなどでは、予後はあまりよくありません。また、若い年代で
発症した場合も、予後は不良です。
 自覚症状の乏しい無症候性の肥大型心筋症は、定期的に心電図検査や心エコー検査などによって
経過の観察を受けることが大切です。
・拡張型心筋症
 拡張型心筋症では、心不全や重症の不整脈を生じることが多いので、心不全の予防と治療、
不整脈による突然死の予防などが重要なポイントです。
 活動時の呼吸困難やむくみ、疲労感といったうっ血性心不全の症状に対しては、ループ性利尿剤を
中心に、ジギタリス製剤、血管拡張剤などによる薬物療法が行われます。
 利尿剤には、末梢血管を拡張する作用があるので、全身の血流状態が改善されます。
 血管拡張剤は、静脈を拡張させる亜硝酸剤が使われます。静脈を広げて静脈内に血液を
とどめることで、心臓に一度に大量の血液が流れ込まないようにし、心臓の負担を減らします。
特にうっ血の軽減に効果があり、活動時の呼吸困難が改善されます。
 また、血管拡張剤と並行して、ACE(アンジオテンシン交換酵素)阻害剤が投与されます。
ACE阻害剤は、血圧を下げる働きがあり、慢性心不全の進展を抑える効果が高いとことが
証明されていて、拡張型心筋症の死亡率を約20%低下させるという報告もみられます。
 不整脈に対しては不整脈治療剤が処方されますが、改善がみられなければ人工ペースメーカーの
埋め込みを行うこともあります。拡張型心筋症では、不整脈から突然死に至るケースが多いので、
不整脈の治療は特に重要とされています。
 このほか、血栓や塞栓症がみられる場合は、ワルファリンカリウムなどの抗凝固剤や抗血小板剤も
使用されます。
 拡張型心筋症では、過労や感染症が引き金となって病状が急激に悪化し、急性心不全を起す
ことがあります。初期にはから咳が出る程度ですが、進行すると安静にしていても呼吸困難が
現れるようになります。
 病状が進行してしまうと、治療はきわめて困難とされています。したがって、病状が悪化しないように
きちんと薬物療法を続けていくことが大切です。
 一般に、拡張型心筋症は肥大型心筋症に比べると、予後はよくありませんが、ACE阻害剤の
導入をはじめとする薬物療法の進歩によって、少しずつ改善されてきています。
・拘束型心筋症
 不整脈、心不全、塞栓症といった症状に応じた対処療法が行われます。
拘束型心筋症に伴う心不全は心臓の拡張機能に支障をきたし、血液がうっ帯してむくみなどが
生じることが多いので、主に利尿剤が用いられます。
 拘束型心筋症では、上室性期外収縮や心房細動などの不整脈もしばしばみられます。
そこで、不整脈治療剤の投与とともに、心拍数をコントロールするために、ジギタリス製剤や
カルシウム拮抗薬が併用されます。また、発作性の心房細動から心不全の急激な悪化を招いた
ケースでは、人工ペースメーカーの埋め込み手術の適応が検討されます。
 塞栓症に対して、抗凝固剤や抗血小板剤が処方されることもあります。
・不整脈原性右室心筋症
 不整脈原性右室心筋症では、主に持続性の心室頻脈がみられるので、不整脈治療剤による
薬物療法や人工ペースメーカーの埋め込み手術、不整脈を引き起こしている心筋を切除する
手術など、不整脈に対する治療が基本となります。
 不整脈原性右室心筋症で心不全をきたすケースは少なく、予後は比較的良好とされていますが、
なかには心室細動などの重篤な不整脈が生じて、突然死につながるケースもみられます。
 長い経過の間には、右心室から左心室へ病変が広がったり、薬物療法や手術療法を行ったにも
かかわらず、新たに心室頻脈が現れてくることもあります。このような病態から、
不整脈原性右室心筋症は進行性の疾患と考えられていますが、成因、治療法、経過に至るまで、
明確には解明されていないのが現状です。
日常生活の注意
激しい運動や重労働は避ける
 心不全や不整脈などの重篤な症状を回避して、突然死を予防するため、薬物療法とともに
運動の制限が行われることがあります。
[食事]
肺にうっ血がみられたり、むくみのある場合は、食事からの塩分摂取量を制限することが必要です。
軽症の場合は1日10g以下、重症の場合は1日5g以下を目安に塩分の摂取を抑えます。
 重症の心筋症では、塩分制限や利尿剤の服用の影響によって、体内のナトリウムが不足する
低ナトリウム血症をきたすことがありますが、この場合は水分の摂取量を抑えることも必要になります。
利尿剤の使用によって、尿中にカリウムが排泄されすぎると不整脈を引き起こすケースがあるので、
野菜や果物を多めにとってカリウムを補給しましょう。
 太っていると、体内を循環する血液の量が増えて心臓に負担がかかるので、肥満がみられる
場合は、食事からの摂取エレルギーも制限します。
[運動]
激しい運動や重労働は、心臓に負担をかけ、病状を急激に悪化させたり、突然死を招く大きな
誘因となるので避けるようにします。
 ただし、あまり安静にしすぎると運動能力が低下して、少しからだを動かしただけでも急激な
心拍数の増加や血圧の上昇を招くことになります。したがって、重症の場合を除いて、
日常生活のなかで歩くことを特に制限する必要はありません。また、運動を始める前に必ず
ウォーミングアップをして、からだを運動に適した状態にしておくことが重要です。
 安全な運動量については一人ひとり異なるので、主治医と十分に相談し、指示を守るように
しましょう。
[入浴]
心不全の病状がみられる場合、浴槽に首までつかると水圧のために心臓に負担がかかるので、
みずおちのあたりくらいめでにします。また、お湯の温度はぬるめにしましょう。
[喫煙と飲酒]
心筋症に限らず、心疾患のある人は必ず禁煙しましょう。
 拡張型心筋症のなかには、習慣的な大量飲酒が原因となるアルコール性心筋症もあります。
日ごろからお酒の飲みすぎは避けることが大切です。
心臓に負担をかけない生活を送る
 心筋症は、無症状に経過するケースがしばしばみられますが、自覚症状が現れていなくても、
日常生活のなかで無理をしないようにし、できるだけ心臓に負担をかけない生活を心がけましょう。
突然死を招くケースも少なくないので、急に走り出したり、重い荷物を運ぶといったことは
避ける必要があります。
 心筋症の治療は困難とされてきましたが、近年は治療法の進歩により、以前に比べて経過も
よくなってきています。
 心筋症は長い経過をたどる病気ですから、医師との十分なコミュニケーションを図り、信頼関係を
築くことも必要です。自分の病状について疑問があれば、積極的に質問したり相談をして、
互いに理解・納得したうえで治療に臨みましょう。

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