心筋梗塞
心臓への血液供給が途絶え、心筋が壊死してしまう状態です。
突然、激痛に襲われたら、心筋梗塞が疑われます。


ヘルスチェック
こんな症状に注意!
・狭心症にかかっていますか?
・息切れや動悸がありませんか?
・胸痛に見舞われたり、吐気がすることはありませんか?
・不整脈がありますか?
・突然、血圧が低下しましたか?
・肥満ぎみですか?
・生活習慣病ですか?
・仕事のストレスが強いですか?
・脂っこいものが好きですか?
どんな病気ですか?
冠動脈が詰まり心筋が壊死する
 毎日10万回以上といわれる心臓の拍動は心筋の収縮によってなされています。心筋へ血液を
通じて酸素と養分を供給しているのは冠動脈で、心臓に冠がかぶさったように覆っているので、
この名称がついています。
 冠動脈には3本の大きな枝があり、そこから中小無数の血管が枝分かれしています。
そのなかの幹線に動脈硬化が起こり内腔が狭くなり、血管の内膜に傷がつくと、血小板が
凝集して血栓が形成されます。すると血流が急激に途絶え、そこから血液の供給を受けていた
心筋細胞は酸素不足に陥り壊死してしまいます。
 これが心筋梗塞で、血流の減少・途絶えが一時的で心筋細胞が壊死まで至らないものを
狭心症といいます。
 心筋梗塞は狭心症が悪化してなるものが約60%、前兆に気づかないものも含めて何の
前ぶれもなくいきなりなるケースが30〜40%を占めるといわれています。
 いずれの場合も、多くは胸部の激烈な痛みを伴いますが、なかにはまったく痛みのない
無痛性心筋梗塞もあります。
 発作の時間は数十分からときには数時間継続し、そのまま死亡する人も少なくありません。
死亡する人の半数は発作から1時間以内に、しかも3割は初回の発作時に死亡するという
統計があります。したがって治療は一刻一秒を争います。CCU(冠動脈疾患集中治療室)の
ある病院にどれだけ早く搬送できるかが、救命及び予後の鍵を握っています。
 発作中に致命的な不整脈や心不全を合併することも多く、脈のあるうちに病院へたどりつけるのは
半数程度だともいわれています。
 同じ循環器疾患で1951年から日本人の死因の第一位を占めてきた脳卒中は、1970年代
前半から減少しはじめ、死亡率は、1982年にがんより下がり、85年には心臓病よりも下回り
3位になっています。しかし、動脈硬化が引き金となる狭心症や心筋梗塞の虚血性心疾患は
増えつつあります。高脂肪食が増え、食生活が欧米化に近づいているためといわれています。
症状
胸に激痛が走り30分以上継続する
 息切れ、動悸、胸痛などの前兆を感じることもありますが、胸部の突然の激痛で始まることが
大多数です。
 痛みは左胸というよりも胸部中央、胸全体の場合が多く、左肩、左腕、首、下顎などに痛みが
放散する場合も珍しくありません。
 狭心症も胸痛が伴い「重苦しい」「鈍痛」「締め付けられる」「息がつまる」などと表現されますが、
じっとして耐えることは可能です。発作は通常数十秒から数分で、30分を越すことはほとんどない
といえます。
 それに対して心筋梗塞は「胸の中をえぐられるような」「心臓を握りつぶされるような」など、
表現は人によってまちまちで、なかには顔面蒼白になり冷や汗を流して、もだえ苦しんで
失神する人もいます。痛みに耐え兼ねて転げ回ったり、吐気、嘔吐をもよおし、失禁してしまう人や、
死の恐怖感にとらわれる人も少なくありません。発作も30分以上から数時間も続き、
ときには断続的に数日間続くこともあります。
 時間帯としてはいつでも起こる可能性がありますが、午前6〜10時、午後7〜10時の
二つの山があります。休息状態から活動状態への移行期、あるいはその逆の移行期に
起こりやすいといえます。安静にしている時か、身体を動かしているときかは、あまり関係が
ありません。
 また、全体の2〜3割の人が、吐き気がする、何となくだるいといった程度の自覚症状しかなく、
痛みはまったく感じなかったという人もいます。これは痛覚に問題があるからで、糖尿病患者、
高齢者などで、神経線維に異常をきたしている人に見受けられます。
 激しい胸痛を起す紛らわしい疾患としては、肺梗塞、解離性胸部大動脈瘤、胸部大動脈瘤破裂
などがあります。胆石、胃・十二指腸潰瘍などの発作に似ているところもあります。
したがって、それらの疾患との鑑別も重要です。
合併症
死亡率の高い不整脈と心原性ショック
 心筋梗塞の合併症は重篤なものが多く、死に至ることも少なくありません。
・不整脈
 代表的な合併症が不整脈です。不整脈は心臓が通常のリズムで拍動できなくなる疾患で、
脈が速くなる頻脈性とゆるくなる徐脈性があります。いずれにせよ60〜100回の平均拍動から
大きくずれ、リズムも不規則になったりします。
 死亡率の高い不整脈としては、頻脈性では心室細動、徐脈性では高度房室ブロックがあります。
どちらも心臓のポンプ機能が極度に失われ、血流が停止するので、電気ショック、ペースメーカーを
つけるといった救命処置がとられないと、多くは突然死に至ってしまいます。
・心不全と心原性ショック
 心筋梗塞の発作より、心不全もしばしば起こります。心不全はよく心臓の疾患と混同されますが、
病名ではなく、血液を全身に供給できなくなって起こる一連の症状を指します。
心不全の特徴的な初期症状は息切れです。軽度だと運動時ていどですが、重度になると
安静にしていても苦しくなります。臓器や組織の血液循環が極端に悪くなりますので、
むくみも出ます。
 心原性のショック状態に陥ることもあり、手足が冷たくなり、冷や汗が出て、皮膚や指先などが
紫赤色になるチアノーゼになります。進行すると意識障害が起きます。ショック状態にあるときの
脈拍は微弱で頻脈になります。
 血液循環不全により、肺うっ血、心臓ぜんそく、呼吸困難などを起して死亡する人もいます。
心筋梗塞と狭心症の違い
心筋梗塞 狭心症
痛む部位 胸部中央、胸全体、左肩・左腕
首・下顎などに痛みが放散
胸部中央、のど下顎などに
放散
痛み方・症状 胸がえぐられるような激痛
冷や汗を伴う
息苦しい、鈍痛
痛みの持続時間 ほとんどが30分以上 ほとんどが数分間
合 併 症 不整脈、心不全、心原性ショック 不整脈
原   因 心筋の組織の壊死 心筋虚血、組織の虚血は
回復する
血中の酸素変化 ある ない
ニトログリセリンの効果 無効 有効
検査
色々な検査で梗塞の状態を判定
 検査には予防を目的とするものと、発作が起きてから行うものがあります。
・発作を予知する検査
 検診を受ける時にはトレッドミル上で歩行したり、エルゴメーターに乗ってペダルをこぐ運動負荷
試験を行い、どの程度までの運動に耐えられるか、虚血性変化が出るかをチェックします。
 心電図を24時間記録できる携帯のホルター心電計をつけていれば、事前に危険を察知する
ことが可能です。
・発作が起こってからの検査
[心電図]
発作の状況と症状にもよりますが、一般的にはまず心電図をとります。
 心電図は心拍異常や心筋の障害の有無など、心臓の約7割の異常がわかる有力な検査法です。
ほんの2〜3分心電図をとれば心筋梗塞特有の波形が現れ、特定することができます。また
梗塞部位や広がっている範囲、合併する不整脈の種類、発生部位などもわかります。
[心エコー]
同様なことは心エコー(心臓超音波検査)でもわかります。
 プローブ(端子)から発射された超音波の反響器具をコンピューターで処理して、臓器などの
映像を得る検査法です。これらはコンピューターで処理されたリアルタイムの画像が見られ、
心臓の拍動の様子が観察できます。壊死した心筋は動かないことから、壊死した部分がどこか
すぐに判明します。
 また心臓の虚血状態が改善されて拍動がリズムカルに力強くなる様子もわかりますので、
治療後の経過観察にも有力な検査となります。最近ではコンピューター画像処理が一段と
進歩して心臓の組織性状や、心臓内の血流の様子までわかるようになりました。
[心筋シンチグラム]
心筋シンチグラム検査は、心筋に取り込まれやすい塩化タリウムなどの薬品を静脈注射して、
心筋細胞への拡散の仕方を見るものです。心筋が死んでいるその部分にタリウムは集まらない
ので、心筋の壊死や血流の過不足が診断できます。ただし、この検査を実施できる施設は
限られています。
[血液検査]
心筋梗塞が起きると、初期には心筋特有の酵素が血液中に流出する心筋酵素逸脱が出てくる
ので、血液を検査すると酵素が異常に増加しています。
 血液を一定量とって放置し赤血球の沈殿する様子をみる赤沈検査では促進傾向があり、
また白血球の増加もあります。
こういったことでも心筋梗塞の診断を副次的に行うこともあります。
[冠動脈造影]
発作直後から安定期、回復期までのさまざまな時期に行います。レントゲン透視画像をモニターで
見ながら、足のつけ根、もしくは肘の動脈からカテーテルという細い管を心臓の冠動脈まで入れ、
X線像でより鮮明に得られる造影剤を注入します。その際、10秒ほど息を止めないといけません。
胸部に圧迫を感じることもありますが、それほど大きな負担ではありません。
この画像では冠動脈の狭窄部とその程度がはっきりとわかります。運動負荷テストが陽性の
場合、詰まっている血管を調べる目的でも行います。
[冠動脈エコー法]
カテーテルの先端に小型のエコー探触子をつけ、冠動脈の狭窄部の血管断面画像を得ます。
冠動脈造影による検査中に治療方針を決める時や、病変部を詳細に検討する必要のあるとき
などに行います。
[冠動脈内視鏡]
カテーテル状の内視鏡によって、狭窄部を観察するものです。エコー法のような血管断面図は
みられませんが、血栓などの状態を診るのに適しています。
治療
CCUへ搬送するのが先決
 心筋梗塞の疑いがある場合、あるいは実際に発作が起こった場合は、ただちにCCUの設備の
ある病院へ行き、治療を受けないといけません。全国に100ヶ所ほどあるCCUには検査・
治療器が備わっているのはもちろん、専門の医師、訓練されたスタッフが24時間体制で即応
してくれます。
CCUでの治療は次のように行われます。
[苦痛への対応]
まずは何よりも発作の痛みや苦しみ、不安状態を除かなければなりません。そこでモルヒネを
はじめとする鎮痛・鎮静剤が使われます。酸素吸入を行い、心筋への酸素を補給する
方法もとられます。
[合併症への対応]
危険な不整脈に対しては、心電図の継続的監視を続行して、出現を予知し、必要に応じて
抗不整脈薬が投与されます。実際に危険性の高い心室細動などの不整脈が発生している
場合は、電気的除細動を行って、通常の拍動を回復させます。人工ペースメーカーによって、
適当な拍動が保てるようにする場合もあります。
 心原性ショックを起している場合には、強心剤や血管拡張剤が投与されます。
そこで効果が薄い場合は、大動脈バルーンパンピング法(IABP)が用いられます。ももの付け根に
ある動脈から、先端にバルーン(風船)のついたカテーテルを胸部大動脈に入れます。
心電図や大動脈圧をモニターしながら、心拍に合わせて膨らませたり縮ませたりして、
動脈内圧を上下させ、冠動脈内の血流を増加することによって、ショックを防ごうというものです。
 心臓が機能しなくなると、全身の組織や臓器にうっ血が起こって、致命的な事態を招きやすく
なります。このうっ血性心不全を防ぐために強心剤、血管拡張剤、利尿剤を投与します。
電解質などを補うために輸血をすることもあります。
[血栓形成への対応]
X線透視モニターを見ながら、冠動脈の閉塞部分にカテーテルを通し、ウロキナーゼなどの
血栓溶解剤を注入し、血栓を溶かす治療法が経皮的冠動脈内血栓溶解法(PTCR)です。
静脈注射による投与法もあり、その効果はほぼ同等です。t−PAという血栓を1〜3時間で溶かして
しまう即効性の薬を使うとPTCRとほぼ同じ効果が得られるといわれます。心筋の壊死は
血液供給が途絶えて1〜6時間ともいわれていますが、この時間内にt−PAを使用して効果が
上がるケースが増えてきました。
 内腔が狭くなり血流の悪くなった冠動脈部分に、バルーンのついたカテーテルを入れて
膨らませて狭窄を内側から押し広げる経皮的冠動脈形成術(PTCA)という治療もあります。
成功率は90%前後といわれますが。3〜6ヶ月後に約30〜40%に再び狭窄の再発があります。
 そのため、再発防止として、狭窄部に筒状、コイル状の金属を留置して、広い内腔を確保しようと
する治療法もあり、これを冠動脈内ステントといいます。
 冠動脈の動脈硬化の発症が広範囲だったり、左冠動脈主幹部(冠動脈の根元)に狭窄がある
場合や狭窄の再発が起こっている場合などは、カテーテルを通じて行う処置では対応できない
ケースが多くあります。そこで開胸して、血液の流れが悪くなった冠動脈の代わりに、別の血管を
バイパスとしてつなげて血流の流れをよくすることがあります。これを冠動脈バイパス術といいます。
その際、使われる血管は患者自身の胸骨の下を走る内胸動脈や下肢の静脈が主になります。
リハビリテーション
個々に応じたプログラムを用意
 心筋梗塞は急性期の危機を脱すれば、予後はさほど悪くありません。以前どおりの生活に
戻れることも少なくないので、急性期から退院までの期間中、医師の指導のもと、段階的な
リハビリテーションを行います。心筋梗塞の重症度、不整脈などの合併症の有無、年齢などの
条件を考慮してプログラムが組まれます。
[入院中のリハビリ]
発作が起きて1日前後は絶対安静です。その後ベットの上で介助させながら座位をとり、
次に起立、7〜10目ぐらいから室内歩行、廊下歩行、階段の上り下りというように、歩行距離と
負荷を増やしていきます。廊下歩行は通常50mくらいから始めます。この4週間ほどの
プログラムを完了したら、運動負荷を行い、運動能力の限界をチェックした後に退院となります。
 心筋梗塞が重症であったり、再発・合併症を起したりした場合は、退院まで2〜3ヶ月以上
かかることもあります。
 ホルター心電図や運動負荷試験は不整脈、狭心症の有無を調べる目的もあります。
これで退院後の生活の目安ができるので、それに沿って日常生活での注意が指導されます。
[退院後のリハビリ]
仕事に戻ったり、いわゆる社会復帰を果たす時期を通常は発病後3ヶ月に設定します。
この時期のリハビリは、許容運動量を、できるだけ増大させ、社会復帰をよりスムーズに行う
よにするのが主要目的です。
 運動の強度は運動負荷試験で得た最大心拍数(テスト時の最高の脈拍)の60〜70%に置き、
その心拍数を維持する運動を行います。通常はウォーキングが選ばれることが多いようです。
 医師の監視下で設備の整った場所でリハビリが行える場合は、トレッドミル、エルゴメーター、
階段の昇降、体操、ジョギング、水泳など、上下肢ともリズムカルに動かす運動が処方される
こともあります。
[社会復帰のリハビリ]
定期的に運動負荷試験を行い、徐々に運動強度を高めていきます。順調に回復するようなら、
散歩や卓球など軽いスポーツができるようになります。
 ただ、元気になったからといって安心してはいけません。次のような生活上の注意を守りましょう。
喫煙は冠動脈硬化の促進因子であり、血栓のできやすくなる血小板機能の亢進、また血管内の
コレステロールの除去作用のあるHDL(高比重リポたんぱく=善玉コレステロール)の低下を
招くとの説もあり、できることなら禁煙してください。やめられない場合の再発率・死亡率は
やめた人の2倍になるといわれています。コーヒーもマイナス因子といわれていますが、
まだ十分に解明されていません。
 適度の運動は血中の中性脂肪が低下し、またHDLを増やしたり、高めの血圧を下げる
降圧効果もありますので、20〜30%死亡率が低下するといわれています。
 ただ運動は過度にならないように、注意してください。性生活は飲食後、過労時などからだに
負担のかかる時期を避ければ十分に可能です。
予防
動脈硬化の危険因子を遠ざける
 何より誘因である動脈硬化にならないことです。それには、肥満、高脂血症、高血圧症、
糖尿病、高尿酸血症を避けることであり、その予防策として食事に対する注意は必要です。
すでにこういった病気にかかっている場合は、なおさら厳密な食事療法を実践して、
動脈硬化を阻止しなければなりません。
 例えば高血圧では塩分の制限、糖尿病では炭水化物、総摂取カロリーの制限、
高脂血症ではコレステロール食の制限、高尿酸血症ではプリン体を多く含んでいる、もつ類などの
食品の制限といった具合です。
 動脈硬化は血中コレステロール値が高くなると進行が早まりますが、HDL値は35mg/dl以下、
LDL(低比重リポたんぱく=悪玉コレステロール)値は140mg/dl以上になると要注意と
いわれています。1年ごとの健康診断で数値をチェックしましょう。ただし、疾患のある人はもっと
こまめに調べる必要があります。
 コレステロールを除去する働きのある食品としては、アジ、サバ、サンマ、イワシなどで、
背の青い魚に大量に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が
注目されています。
 海藻やゴボウのような根菜など、食物繊維の豊富な食品も腸内でコレステロールを吸着する
作用がありますので、結果的に血中コレステロール値を減らすことになり、同じように注目
されています。
 血管壁の弾力を保つためには良質のたんぱく質の補給も欠かせません。豆腐、牛乳、魚肉なども
毎日とるようにしてください。ビタミンC、ビタミンEを多く含む緑黄色野菜などの食品は、
動脈硬化に大きく関わっているとみられる体内の活性酸素の発生を抑制する作用があると
いわれています。積極的に摂取するようにしましょう。
一刻も早くCCUへ搬送
 心筋梗塞になったら助からないという印象がありますが、昨今の治療の発達は目覚しく、
早期に治療をすれば助かる可能性は十分にあります。心筋梗塞発作を起した人がいたら、周囲の
人はすぐに救急車を呼び、CCUへ一刻も早く運ぶことが何よりも大切です。
 予防および再発防止には動脈硬化にならないことが最大のポイントです。また、心筋梗塞は
几帳面で短気、負けず嫌い、清潔好きといった性格の人に多く発症しているという報告があります。
こういう人は特に注意すると同時に、ゆとりをもった生き方をするように努めたいものです。

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