脳腫瘍
脳腫瘍は頭蓋内にできた腫瘍の総称で、発生部位によってさまざまな症状が現れます。
診断・治療技術の進歩に伴って、治癒率は年々高くなっています。


ヘルスチェック
こんな症状に注意!
・鈍い頭痛が続いていませんか?
・吐気や嘔吐がしばしばみられますか?
・けいれん発作がみられますか?
・手足に力が入らなかったり、動かしにくいですか?
・熱さや冷たさ、痛み等の感覚が鈍くなっていませんか?
・ろれつが回らなかったり、言葉が出てこないことがありますか?
どんな病気ですか?
頭蓋内に発生する腫瘍の総称
 頭蓋骨に包まれた部分(頭蓋内)に発生した腫瘍を、脳腫瘍といいます。
大脳や小脳などの脳実質(脳細胞からなる脳組織)のほか、脳を覆う脳脊髄膜(髄膜)、骨や血管、
脳神経、下垂体や松果体といった内分泌器官など、頭蓋内にある組織に発生する腫瘍は、
すべて脳腫瘍と総称されます。
 脳腫瘍の原因や誘因は明らかになっていませんが、外因としては頭部外傷、放射線の照射、
化学物質あるいはウイルスの感染などが考えられます。
 また、全身の末梢神経に腫瘍ができたり、皮膚にカフェオレ斑という色素斑が生じる
多発性神経線維腫症(フォン・レックリングハウゼン病)や、皮膚に白斑が現れ、てんかんなどを
伴う結節性硬化症の人は、脳腫瘍を発生しやすい遺伝的あるいは先天的な素因があると
されています。脳腫瘍は、あらゆる年齢の人に起こる可能性がありますが、特に35〜55歳
くらいの年齢層に多くみられます。
 脳腫瘍は年々増加する傾向にあります。厚生労働省の調査によると、1970年代後半の
1年間の発症数は、人工10万人に対して5〜6人ほどでしたが、90年代に入ってからは毎年、
人工10万人当たり10人くらいずつ発症しています。
 また、脳腫瘍の診断方法や治療技術は進歩してきているものの、脳の悪性腫瘍で死亡する
人は増えており、90年代に入ってからは毎年1000人を超え、96年以降は1400人以上に
のぼっています。
症状
発生部位によって異なる
 脳腫瘍の症状は、局所症状と頭蓋内圧亢進症状に大別できます。
腫瘍が発生すると、最初に局所症状が現れます。
・局所症状
 脳には、知覚や運動、精神機能など、からだのさまざまな働きをコントロールする中枢が
分布しています。そのため、脳のどこに腫瘍が発生したかによって、現れる症状は異なります。
[前頭葉の障害による症状]
大脳の前方にあたる前頭葉に腫瘍ができると、感情の起伏が少なくなり、性格が変化してきます。
楽天的になったり、物事に無関心になるほか、理性や思慮分別が失われることもあります。
 思考や記憶力が低下して痴呆状態に陥ったり、日時や自分のいる場所、周囲の人などが
わからなくなる見当識障害が起こるケースもみられます。
 相手の話の内容は理解できても言葉が出てこなくなる運動性失語症、片側の手足が麻痺
してしまう片麻痺のほか、けいれん発作などを伴うこともあります。
[頭頂葉の障害による症状]
 大脳の最上部の頭頂葉は、腫瘍に侵されることが多く、失認や失行などの症状を招きます。
失認とは、よく知っているはずの人や色の名前を言いあてられなかったり、物に触れても
何であるかを判断できなくなる状態です。また失行は、手足の知覚・運動機能は残っているのに、
動作がぎこちなくなったり、洋服を着るといったいくつかの動作を組み合わせた行動ができなくなる
ケースを指します。
 字を書いたり、計算をすることがおぼつかなくなる場合もあります。
[後頭葉の障害による症状]
 後頭葉には視覚野があり、ここに腫瘍ができると、視界が狭くなったり、視野の一部がかけて
しまいます。
 物が見えなくなったり、見えているのに何であるかを鑑別できない視覚失認を招く
ケースもあります。
[側頭葉の障害による症状]
 側頭葉に腫瘍が発生すると、記憶障害が生じて物忘れがひどくなったり、不安や抑うつ、
恐怖といった感情障害が現れます。相手が話す言葉は聞こえるのに、意味を理解することが
できなくなる感覚性失語症がみられる場合もあります。
 また、幻聴、嗅覚や味覚の異常、手足あるいは全身のこわばりなどを特徴とするてんかん発作を
引き起こすことも少なくありません。
[小脳の障害による症状]
 小脳の腫瘍は子どもに多くみられます。小脳には髄芽腫や星細胞腫が発生しやすく、
立ち上がったり歩くときにふらついたり、平衡感覚に支障をきたすようになります。
[下垂体、視床下部の障害による症状]
 下垂体や視床下部は、大人では下垂体線維が、子どもでは頭蓋咽頭腫などが発生しやすい
部位です。性ホルモンの分泌異常による無月経やインポテンツ、性欲の低下といった症状を
引き起こします。
 成長ホルモンの分泌異常によって、身長が低いまま伸びなくなる小人症や、逆に異常に背が
高くなる巨人症、手足の指やあごといった、先端部が肥大する先端巨大症などが
現れることもあります。
・頭蓋内圧亢進症状
 脳は硬い頭蓋骨で覆われているので、腫瘍により脳の容積が増えると頭蓋内圧が上昇します。
これを頭蓋内圧亢進といい、いくつかの特徴的な症状が現れます。
 頭蓋内圧亢進症状は、腫瘍がある程度大きくなってから局所症状に引き続いて現れるもので、
脳腫瘍の進行に伴って、次第に顕著になってきます。
 最も多くみられる症状は頭痛で、鈍い痛みを覚えたり、頭部全体が重く感じられます。
子どもでは吐気がないのに突然ピューッと噴出すように吐く射出性嘔吐もよくみられる症状です。
視力障害が現れることもあります。
 頭蓋内圧が高まってくると、どう動眼神経が圧迫されて眼球の運動障害が現れたり、
物が二重に見える複視を招くことがあります。さらに内圧の亢進が進むと、脳の深部にある
脳幹が損傷されて、けいれん発作、呼吸障害、意識障害といった重篤な症状を引き起こし、
生命に危険が及んできます。
検査と診断
CTとMRIで病気を確定
 脳腫瘍の診断では、まず問診で症状のチェックが行われます。脳腫瘍の種類や発生部位に
よって症状は異なるので、気になる症状があるときは、いつごろから始まり、どのような
現れ方をしているかを記録しておくとよいでしょう。症状が時間の経過に伴って悪化している場合は、
脳腫瘍の可能性が高くなります。特に、長引く頭痛や吐気・嘔吐は鑑別の重要な手がかりに
なります。
 脳腫瘍が疑われるときは眼底検査を行って、視神経乳頭とよばれる部分が腫れているかどうかを
調べます。また、腱反射や握力の測定などによって運動障害の有無を確認するほか、
医師が話しかけた言葉を復唱させたり、書きとってもらったりして言語障害の程度をみるなど、
さまざまな神経学的検査が実施されます。
 確定診断のためには画像検査が有効です。CT検査とMRI検査によって、腫瘍の発生部位、
広がり具合、良性か悪性かなどが明らかになります。
 脳の血流状態を調べるために、カテーテルという細い管を用いて頚動脈などから造影剤を
注入し、X]腺撮影をする脳血管撮影検査や放射性同位元素を入れて吸収具合を見る
脳シンチグラフィー、超音波検査、筋電図検査、脳波検査なども必要に応じて行います。
 血液検査も重要です。腫瘍マーカーと呼ばれる腫瘍が作り出した酵素やたんぱくの有無を
調べたり、ホルモンの量を測定して分泌状態を確認します。
治療
手術による病巣の摘出が基本
 治療方法は腫瘍の種類によって異なりますが、一般的には腫瘍が良性か悪性かによって
選択されます。どちらの場合も病巣の摘出手術が基本となり、必要に応じて放射線療法や
化学療法を組み合わせる集学的治療が行われます。
・良性腫瘍
 髄膜腫や下垂体線維、小脳に発生した星細胞腫など、腫瘍が良性の場合は、進行が
ゆっくりで周囲の組織へそれほど広がってこないことが多く、また正常な部位との境界が
はっきりしているので、手術だけで完治するケースもあります。
[手術療法]
 マイクロサージャリー(顕微鏡下手術)という方法がとられます。これは、頭蓋骨を切開し、
治療用の顕微鏡で病巣を数倍に拡大して、観察しながら摘出手術を行うものです。
最近では、治療技術の進歩によって、切開範囲を小さくとどめ、患者の身体的な負担を減らす
ことができるようになってきました。
[放射線療法]
 病巣が広がって手術だけではとりきれなかったり、腫瘍が脳の深部にある場合は、
放射線療法が併用されます。手術前に頭部全体に放射線を照射して、腫瘍を小さくしてから
切除を行う方法や、手術中に腫瘍に直接照射する方法、手術後に照射して取り残した腫瘍の
細胞を壊死させる方法があります。良性腫瘍のなかでは、頭蓋咽頭腫に対して効果を
上げているそうです。
 また、最近ではガンマナイフという治療方法が開発され、効果を上げています。
ガンマナイフの適応となるのは、直径が3cm以下の小さな腫瘍や、周囲への浸潤がみられない
限局した病巣とされていますが、手術や従来の放射線療法と組み合わせる方法も
試みられています。
・悪性腫瘍
 悪性の神経腫瘍などでは、発見されたときにはすでに病巣が広がっていて、腫瘍と正常組織が
入り混じっているケースが多くあります。そのため、手術だけで根治させることは難しいと
されています。
[手術療法]
脳にはからだのさまざまな機能の中枢が局在しており、正常部分を傷つけると重い後遺症を
残す可能性があります。そのため脳腫瘍の場合は、ほかの部位のがんのように、転移や再発を
抑える目的で周囲の組織も含めて大きく切除することができません。そこで、手術前に、
脳の神経活動に伴って発生する弱い磁場を測定する脳磁図検査を行い、腫瘍の部位を
できるだけ正確に把握します。
 実際の手術方法は良性腫瘍と同じです。ただし、根治が難しいため、腫瘍の縮小や、
頭蓋内圧の低下が主な目的となる場合もあります。
[放射線療法]
良性腫瘍と同様の方法がとられます。悪性腫瘍のなかでも、髄芽腫に特に効果的です。
 転移性脳腫瘍に対しては、放射線療法が効果を示すことが多く、特に3cm以内の小さな
腫瘍にはガンマナイフが有効とされています。
[化学療法]
放射線療法との併用が基本となります。手術や放射線照射の後に残った腫瘍組織を、
抗がん剤の使用によって小さくしたり、手術後の再発を防ぎます。
 抗がん剤の投与方法は、静脈への点滴や内服による全身投与のほか、腫瘍組織に
栄養分を供給している動脈に注入する動脈内注入法、脳と髄膜のすき間に注入する
髄腔内投与といった局所投与があります。また、脳内の動脈にマイクロカテーテルという
細い管を挿入して抗がん剤を注入する、超選択的動脈内注入法が行われる場合もあります。
 化学療法では、何種類かの抗がん剤の併用によって、薬の相乗効果を高めたり、副作用が
現れる可能性を少なくします。
 脳の神経細胞をとりまく星状細胞は、薬剤などの異物が神経細胞に取り込まれないように
分解・吸収してしまう脳血管関門とよばれる機能をもっているため、脳血液関門を通過しやすい
脂肪性の薬剤が主に使用されます。
[免疫療法]
集学的治療でも腫瘍を根治できない場合は、免疫療法が行われることがあります。
これは、腫瘍を攻撃する抗体を活性化させるもので、腫瘍の増殖を抑えたり、死滅させる効果が
期待できます。免疫機能を高める作用をもつインターフェロンやインターロイキンという物質を
投与したり、患者の骨髄を採取して、免疫機能にかかわるTリンパ球を大量に培養し、
再び患者に移植するといった方法があります。
[温熱療法]
まだ浸潤が進んでいない腫瘍に対しては、温熱療法が行われることがあります。
これは、マイクロウェーブなどの高周波の電波を脳にあてて、腫瘍の周辺組織の温度が
42〜43℃になるように調節し、腫瘍細胞のたんぱく質を変性させて壊死に導く方法です。
[その他の治療法]
腫瘍組織に出血が起こったり、脳内に脳脊髄液(髄液)がたまって、頭蓋内圧亢進症状が急激に
悪化すると、生命にかかわるので、降圧利尿剤やステロイド剤を投与して頭蓋内圧を
一次的に下げることがあります。手術や放射線療法といった根本的な治療は、
こうした処置を行って、全身状態が回復してから実施されます。
治療後の生活の注意
機能回復訓練と定期検査を続ける
 脳腫瘍は、治療によって完治したと思われても再発する可能性があります。退院後は、
主治医の指示に従って定期的に通院し、CTやMRIなどの検査を受けて再発の有無をチェックして
もらうことが大切です。悪性腫瘍の場合、退院から2年くらいは年に2〜3回短期入院をして、
化学療法を受けたほうがよいでしょう。
 また、手術後にけいれん発作を起す場合もあるので、予防のために抗けいれん薬の服用を
1年から数年にわたって続けることになります。けいれん発作が現れた人は、精神的なストレスや
過労を避け、栄養バランスのよい食事をとるようにします。けいれん発作は体内のミネラルの
バランスが崩れると起こりやすいとされているので、塩分や水分のとりすぎを控え、
カルシウムやマグネシウムの豊富な食事を心がけましょう。
 脳腫瘍の手術で脳の一部を摘出せざるえない場合、失語症や失行、失認、手足の運動障害、
顔面神経麻痺といったさまざまな機能障害が、手術前よりも著しくみられることがあります。
しかし、リハビリを続けていれば、脳の活動が活発化してきて、機能をある程度まで回復させる
ことは十分に可能です。理学療法士や言語療法士といった専門の指導員のもとで、
1日も早い社会復帰を目標として、根気よく訓練を続けることが大切です。場合によっては、
リハビリセンターに転院して機能訓練を行うケースもあります。
 また、回復の過程においては、家族の協力や精神的な支援が何より重要です。
気になる症状が現れたら早めに受診
 脳腫瘍の予後は、脳腫瘍の種類によって大きく異なります。93年の全国脳腫瘍統計によると、
脳腫瘍全体の5年生存率は68%ですが、良性の星細胞腫では63%、悪性の場合は8%です。
一方、髄膜腫などの良性腫瘍の5年生存率は90%以上になっています。
 診断や治療技術が向上し、脳腫瘍の種類によっては完治も可能になってきました。
ただし、治療が遅れると、重篤な後遺症が残ったり、急激に進行して死に至るケースも
決して少なくなりません。手足の運動障害、頭痛や吐気といった脳腫瘍が疑われる症状が
現れたら、なるべく早く脳神経外科などの専門医を受診することが大切です。

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