脳炎・脊髄炎・髄膜炎
脳炎、脊髄炎、髄膜炎の早期発見・治療のためには、激しい頭痛や高熱などが
続いたら、早めに受診することが大切です。
| ヘルスチェック こんな症状に注意! ・高熱が続いていますか? ・激しい頭痛がしますか? ・首の後ろがこわばっていませんか? ・意識障害がありますか? ・けいれんがありますか? ・手や足に痛みや麻痺が生じていますか? ・吐気や嘔吐がみられますか? |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| どんな病気ですか? 脳、脊髄、髄膜に炎症が起こる 脳、脊髄は、自律神経中枢や知覚神経・運動神経中枢としての機能をもっており、髄膜(脳脊髄膜)は 脳と脊髄を包んでいます。 三つのうち、どこが障害を受けても、中枢神経にまつわるさまざまな症状が起こってきます。 脳炎は、脳の組織に炎症が起こるもので、たいていは、発熱や倦怠感などの全身症状とともに、 頭痛、嘔吐、意識障害、麻痺、けいれんといった症状が現れます。 また、凶暴性を示したり、うわごとを言うといった精神神経症状がみられることもあります。 脊髄炎は、急性と慢性のケースがあります。急性脊髄炎では、発症して数時間以内に、 発熱、頭痛、手足の痛みが現れ、下半身を中心に運動麻痺や知覚障害がみられます。 膀胱や直腸に障害が生じ、失禁や尿閉、排尿困難などが起こることも少なくありません。 重症の場合は、手足が完全に麻痺するケースもみられます。一方、慢性脊髄炎では、 両足の運動麻痺や知覚障害が少しずつ現れてきます。 髄膜炎(脳脊髄膜炎)は、髄膜に炎症が起こるもので、発熱、頭痛、吐気、嘔吐などの症状が現れ、 ときには意識障害やけいれんを招きます。 脳炎、髄膜炎の多くは、重症になると意識障害や昏睡を起し、生命に関わるケースがみられます。 また、治療が遅れると、重い後遺症が残る可能性が高くなります。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 種類と症状 原因の多くは病原微生物の感染 主な脳炎、脊髄炎、髄膜炎の種類と症状は次のようなものです。 神経系感染症を引き起こすウイルス 代表的なウイルスとしては、単純性疱疹(単純ヘルペス)ウイルス、コクサッキーウイルス、 エコーウイルス、ポリオ、ムンブスウイルスなどがあげられます。 頻度は少ないものの、ほかにも多様なウイルスが神経系感染症を引き起こすことがわかっています。
○:原因の可能性があるウイルス △:ときに原因となるウイルス |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ・脳炎 脳炎の多くは、病原微生物、特にウイルスの感染によって起こり、ウイルスが脳の組織に 直接感染して発症する一次性脳炎と、脳以外の臓器が感染症にかかったことによって生じる二次性 (感染後)脳炎に大別されます。 また、一次性、二次性どちらにも分類されない特殊や型として、ウイルスに感染してかなりの日数が たってから脳炎を発症する遅発性ウイルス脳炎があげられます。 一次性脳炎には、単純ヘルペス脳炎、日本脳炎、嗜眠性脳炎などがあります。 また、二次性脳炎は、麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風疹などから起こる ケースが多くみられます。 [単純ヘルペス脳炎] 単純性疱疹という皮膚病の原因ウイルスが感染して起こる脳炎です。急性ウイルス性脳炎のなかでは 最も多く、10〜20%を占めています。どの年代でも発症しますが、特に30歳以下の人に多くみられます。 突然40℃以上の高熱が出て、頭痛やけいれん発作が現れます。かぜのような症状で始まる場合も ありますが、症状が進むと、不機嫌、意欲の低下をはじめとする人格変化が生じたり、突然わめきだす といった異常な行動をするケースもみられます。 また、言葉が出てこなくなる失語症、知能障害、幻覚、妄想などを伴うこともあります。 重篤な場合は、飲食物が飲み込めなくなる嚥下(えんげ)障害や、呼吸障害を起し、昏睡に陥って 生命に関わるケースもあります。 治療が遅れると、多くは意識障害が長引いたり、知能の低下、性格の変化、言語障害といった さまざまな後遺症が残ります。ときに、てんかんや運動失調、嚥下障害、排尿困難などが残ることもあります。 [日本脳炎] 日本脳炎ウイルスが原因で起こる脳炎です。日本脳炎のウイルスは脳細胞で増殖するため、 さまざまな脳症状が現れてきます。 突然の発熱と頭痛から始まり、時間の経過に伴って体温が上がり、40℃前後になります。 発症して3日目ごろから意識障害が現れ始めることが多く、うわごとを言ったり、興奮しやすくなるといった 特有の症状を示すようになります。 6日目ごろになると次第に熱が下がり始め、10〜14日くらいで回復します。小児の場合は、 高熱とともにけいれんを起こすこともあります。 一般に、高熱が続くと重症化する危険が高く、特に高齢者では生命の危険を招いたり、 小児では後遺症を残すケースがあります。 日本脳炎は第二次世界大戦後に、日本で大流行しましたが、日本脳炎ワクチンによる予防接種が 行われるようになってから発症率は著しく減少しました。 現在では日本脳炎を発症する人は非常に少なくなっています。 [遅発性ウイルス脳炎] 代表的な遅発性ウイルス脳炎としては、亜急性硬化性全脳炎、進行性多巣性白質脳症などが あげられます。 亜急性硬化性全脳炎は、はしかなどの発疹性ウイルスに感染した後、数年から数十年たってから 起こる脳炎です。 特に学童期に多くみられ、初期には、落ち着きがなくなるといった行動の異常や、記憶力の低下などが 現れます。進行するに従って運動障害やけいれんも生じてきます。 動かすつもりはないのにからだの一部が不自然に動いてしまうミオクローヌスや、視力に障害を生じ、 やがて痴呆や昏睡に陥り、植物状態になって数ヶ月から数年の間に死に至ることがあります。 進行性多巣性白質脳症は、がん、白血病、悪性リンパ腫、免疫抑制剤による治療などのために 免疫力が低下しているときに、パポーバウイルスが脳に感染し、増殖して起こる脳炎です。 40〜50代に発症することが多く、女性より男性の発症率がやや高いといわれています。 病変がある部位によって症状はさまざまですが、一般に運動麻痺、視覚障害、失語症、脳神経麻痺、 痴呆などが現れます。最終的には昏睡状態に陥ってほとんどは6ヶ月以内に死に至る可能性が高い とされています。 このほか、まれなケースとして、クロイツフェルト・ヤコブ病も遅発性ウイルス脳炎の一種としてあげられます。 ・脊髄炎 脊髄炎は、その原因から、感染性脊髄炎、アレルギー性・白質脊髄炎、 代謝性・中毒性脊髄炎に分けられます。また、発生部位によって、白質脊髄炎、灰白脊髄炎、 髄膜脊髄炎に分類されます。 白質脊髄炎は、ウイルスによる感染症や予防接種の後に、発熱、全身倦怠感、発疹などの症状が現れ、 症状の進行に伴って、足の麻痺やしびれが起こってきます。麻痺やしびれは、次第に腹部や胸部へも 広がり、胃腸や膀胱の機能が麻痺してしまいます。また、背中に痛みを覚えることもあります。 灰白脊髄炎は、ポリオや帯状疱疹などのウイルス感染が原因で、脊髄灰白質に炎症が起こるものです。 髄膜脊髄炎は、結核菌や梅毒トレポネーマ、真菌による髄膜炎が脊髄まで及んで発症するケースです。 ・髄膜炎 髄膜炎は、原因によって化膿性髄膜炎、ウイルス性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎などに 分けられます。このうち、最も多くみられるのは、細菌感染による化膿性髄膜炎です。 このほか、がんの転移や膠原病、梅毒などの合併症として髄膜炎を起すこともあります。 [細菌性化膿性髄膜炎] 細菌感染が原因の髄膜炎で、心臓病、がんや白血病、糖尿病、腎臓病などによって、免疫力が低下 しているときに起こりやすいとされています。 主な原因菌としては、髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、連鎖球菌、大腸菌、ブドウ球菌などが あげられます。 中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、心内膜炎などから細菌が髄膜に及んだり、頭部の傷口から直接細菌が 侵入することによって引き起こされます。 たいていは、寒気と高熱から始まり、激しい頭痛がします。吐気や嘔吐もみられ、時間の経過とともに 首の後が張って硬直する項部硬直が現れます。また、あおむけになった状態で膝が伸ばせなくなる ケルニッヒ微候が出ます。 意識障害やけいれん、うわごとを言うといった精神神経症状が起こることもあります。 [流行性脳脊髄膜炎] 髄膜炎菌による感染が原因で起こる髄膜炎です。人から人へ飛沫(ひまつ)感染し、ときには流行する こともあったため、流行性脳脊髄膜炎とよばれていますが、今日ではほとんどみられません。 冬から春にかけて発症するケースが多く、突然、寒気や高熱が現れ、頭痛や嘔吐、意識障害などが生じます。 また、皮膚に紅斑や丘疹などの発疹が生じたり、腹痛や下痢を起すケースもあります。 まれに、ウォーターハウス・フリードリクセン症候群といわれる重篤な症状を示すことがあります。 これは、寒気やふるえ、動悸、高熱とともに皮膚から出血がみられ、急激に血圧が低下して ショック状態に陥るものです。 [結核性髄膜炎] 結核菌の感染による髄膜炎で、もともと糖尿病や腎臓病などがあり、感染に対する抵抗力が低下している 人に起こりやすいとされています。また、乳幼児に比較的多くみられます。 乳幼児の場合、初期には不機嫌、食欲不振、元気がないといった症状を招き、その後、発熱や嘔吐、 けいれんなどが現れます。大人では、微熱や頭痛、体重減少のほかに、精神状態が不安定になったり、 行動異常で始まることもあります。 結核性髄膜炎は、それほど多くはみられませんが、死亡率が高く、また、知能低下などの 後遺症が残りやすいとされています。 [真菌性髄膜炎] クリプトコッカス、カンジタ、アスペルギルス、ムコール菌といった真菌の感染が原因で起こる 髄膜炎で、クリプトコッカスによるものが最も多くみられます。 がん、白血病、悪性リンパ腫、糖尿病などで免疫力が低下している人に起こりやすいとされていますが、 クリプトコッカスによる髄膜炎は、まれに健康な人でも発症することがあります。 頭痛や発熱、嘔吐、精神症状、意識障害などが現れて、少しずつ進行していきます。 [ウイルス性髄膜炎] ウイルスの感染が原因の髄膜炎です。日本では、コクサッキーやエコーというウイルスによるものが 多くみられますが、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などで生じる こともあります。 細菌性化膿性髄膜炎と同様、急激な発熱や頭痛が起こり、吐気や嘔吐を招くケースもみられますが、 細菌性の髄膜炎より症状が軽いことが多いといわれています。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 検査と診断 血液や脳脊髄液を調べる 脳炎、脊髄炎、髄膜炎では、病原体を突きとめるために、血液の培養検査や髄液検査が欠かせません。 病因となっている細菌やウイルスを確定するためには、静脈から採取した血液の培養を行います。 髄液検査は、腰椎に針を刺して採取した髄液を調べるもので、混濁の有無、白血球数、たんぱくや糖の 濃度などを把握して診断の参考にします。 髄液の糖濃度を調べる際には、血糖値の検査も同時に行われます。髄液の糖濃度は通常、 血糖の50〜70%の値で、血糖の40%以下まで減少しているときは髄膜炎と診断されます。 細菌抗原の検出、ウイルス抗体価などの検査も実施されます。細菌の培養やウイルスの抗体価の結果が 判明するまでには、最低でも1〜2日、特殊なものでは数週間近くかかる場合もあります。 脳炎や髄膜炎は、治療が遅れると、後遺症を残したり、生命に関わるケースもあります。 そこで、検査結果を待たずに、発症時期や初期症状、進行具合、意識障害や精神症状、けいれんの有無 などからある程度診断をつけて、治療が開始されることになります。 このほか、必要に応じて血液生化学検査、尿検査、胸部・頭部X線検査、心電図検査、脳波検査なども 行い、総合的に診断します。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 治療 薬物療法が主体 脳炎、脊髄炎、髄膜炎では、いずれの場合も、薬物療法が主体となります。特に、細菌性の脳炎や 髄膜炎に対しては、病原菌に応じた抗生物質を投与する必要があります。 ・脳炎 単純ヘルペス脳炎に対しては、早期に抗ウイルス剤の投与が行われます。しかし、日本脳炎をはじめ、 ヘルペス以外のウイルス性脳炎の場合は現在のところ有効な治療薬がないため、副腎皮質ホルモン剤、 抗けいれん剤、向精神薬などによる対処療法が中心となります。 また、ヒト免疫グロブリン剤による治療の効果も認められます。 ウイルス性脳炎の治療後の経過は、患者の年齢や病気の進行具合、免疫力の状態によって異なり、 完全に回復するものから後遺症が残るもの、さらに死に至るものまでさまざまです。 遅発性ウイルス脳炎も、現時点では有効な薬はありません。したがって、けいれんやミオクローヌスに 対する抗てんかん薬などによる対処療法が中心となります。 ・精髄炎 急性期には安静を保ち、副腎皮質ホルモン剤が投与されます。薬物療法によって脊髄の炎症が 治まった後に、運動麻痺などに対するリハビリテーションが行われます。 脊髄炎は回復までに時間を要することが多く、床ずれや膀胱炎などの合併症を併発しやすいので、 特に全身状態の管理に十分な注意が払われます。 ・髄膜炎 細菌性化膿性髄膜炎では、髄液検査や血液培養で突きとめた細菌に最も有効な抗生物質が用いられます。 原因菌がはっきりしない間は、多種類の細菌に対して治療効果を示す抗生物質を使用されます。 結核性髄膜炎では抗結核剤、真菌性髄膜炎では抗真菌剤が投与されます。 こうした薬物療法に加えて、食事が十分にとれない場合は点滴によって栄養や水分を補給し、 高熱や頭痛に対しては解熱剤や鎮痛剤などを処方する対処療法が併用されます。 重症の場合は、γーグロブリンなどによって免疫力を高める治療が行われることもあります。 細菌や真菌が原因の髄膜炎は、治療が遅れると生命の危険が大きくなります。 また、症状が進んで意識障害が現れると、治療後に知能低下などの後遺症を残すケースが多くみられます。 したがって、後遺症を残さず、完全に治すには、できるだけ早く治療を開始することが必要です。 ウイルス性髄膜炎については有効な治療薬がないため、症状に応じた対処療法がとられますが、 ほとんどは後遺症も残さず完治します。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 神経系感染症の治療薬 脳炎、脊髄炎、髄膜炎などの神経系感染症の治療では、薬物療法が主体となります。 治療薬の選択は、病原体に応じて行われます。 ・抗真菌薬 使用薬は、ミコナゾール、フルコナゾール、アムホテリシンB,フルシトシンなどが中心となります。 このうち、真菌性髄膜炎には、アルホテリシンBやフルシトシンが治療効果を上げています。 また最近は、フルコナゾール、ミコナゾールなどの抗真菌薬の使用も行われています。 ・抗ウイルス薬 単純ヘルペス脳炎に対しては、アシクロビルとビダラビンの2剤が有効です。アシクロビルは、 単純ヘルペスウイルスが感染した細胞だけに働き、非感染細胞にはほとんど作用しないため、 副作用も少なく、ビダラビンに比べてより有効性が高いとされています。 ・抗生物質 細菌性化膿性髄膜炎などでは、原因菌に対する感受性テストの結果から使用する抗生物質を 選択しますが、原因菌がはっきりしない場合は、有効範囲の広いペニシリン系やセファロスポリン系の 抗生物質がよく使用されます。 ・抗結核薬 代表的な抗結核薬には、ストレプトマイシン、イソニアジド、リファンピシン、エタンブトールなどが あげられます。 結核性髄膜炎に対しては、特にこの4剤が併用されます。 ・その他 対処療法として、鎮痛薬、解熱薬、抗てんかん薬、パーキンソン症候群治療薬、副腎皮質ホルモン剤 などが使用されます。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| まとめ 早めに病医院を受診する 脳炎、脊髄炎、髄膜炎は、発熱や頭痛といったかぜのような症状で発症することが多いために、 発見が遅れて重い後遺症が残ったり、生命にかかわるケースもあります。 しかし、多くの場合、早期に適切な治療を開始すれば、完全に治すことができます。 いつものかぜとは違った気になる症状が現れたときには、できるだけ早く病医院を訪れて、 診察を受けるようにしましょう。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||