くも膜下出血
くも膜下出血は脳血管障害の一つです。脳出血や脳梗塞などに比べると
患者数は少ないのですが、突然死を招くことが多い病気です。


ヘルスチェック
こんな症状に注意!
・突然する激しい頭痛がありましたか?
・もうろうとしたり、意識を失ったことはありませんか?
・嘔吐やけいれんがありましたか?
・頭痛や嘔吐が続いてますか?
・手足が麻痺していますか?
・ろれつが回らなくなりましたか?
・物がみえにくくないですか?
・首筋がこわばっていますか?
どんな病気ですか?
働き盛りに多く死亡率が高い
 脳血管障害は、脳の血管の異常によって起こる脳神経系の病気の総称で、出血性と閉塞性に分けられます。
出血性病変は、くも膜下出血と脳出血、閉塞性は脳梗塞や一過性脳虚血発作があげられます。
 くも膜下出血の患者数は、脳出血や脳梗塞などに比べると、それほど多くありません。
しかし、死亡率は高く、脳卒中による死亡者全体に占める割合は年々上昇しています。
特に、50〜60代の人を中心に死亡者の増加がみられます。
 脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜の3種類の脳膜で覆われています。動脈が破れ、くも膜と軟膜の間の
くも膜下腔という隙間に出血した状態がくも膜下出血です。
 くも膜下出血の発作を起こすと突然死につながることが多く、約20%の人は数時間以内に死亡すると
いわれます。ただ、くも膜下出血を起こして、くも膜下腔に血液が広がっても、脳自体には影響が及ばない
ケースも多いので、早期に適切な治療が行われれば、後遺症を残さずに完治する可能性も大きいと
されています。
種類と原因
脳の異常血管から出血
 くも膜下出血は脳の動脈壁に弱い部分や瘤があるなど、脳の血管の異常が原因となって起こるケースが
ほとんどです。
[脳動脈瘤破裂]
くも膜下出血の75〜90%は、脳動脈瘤の破裂によって起こります。
 脳の動脈壁に血流による負荷がかかり続けると、動脈壁の弱いところが、瘤のように膨らんで
動脈瘤ができます。さらに圧力がかかると動脈瘤が破裂し、出血がくも膜下腔に広がります。
この状態がくも膜下出血です。
 血管壁の一部に、もともと弱い部分があって動脈瘤ができるといわれています。
まれに動脈硬化や頭部の怪我などが原因となることもあります。
発症する人の多くは40〜60代です。
[脳動静脈奇形破裂]
くも膜下出血の約5〜10%は、脳動静脈奇形の破裂によって起こるといわれています。
脳内の動脈と静脈が異常な血管の塊(異常血管網)を介して、直接つながっていて、弾力性の弱い静脈に
動脈側の強い圧力がかかるため、静脈壁や異常血管が破裂して出血しやすくなります。
 脳動静脈奇形は先天的なもので、20〜40代の比較的若い人に発症するケースが多くみられます。
[高血圧性脳内出血]
高血圧になると、血流による強い圧力が脳内の細い動脈壁にかかり続けるために、血管壁が弾力性を
失ってもろくなり出血しやすくなります。
 高血圧は脳出血の大きな原因の一つですが、出血がくも膜下腔に及ぶこともあり、その場合は
くも膜下出血として扱われます。
 高血圧性脳内出血によって発症するのは、くも膜下出血の原因全体の10%程度にすぎません。
[その他]
もやもや病、脳腫瘍、脊髄の動静脈奇形によって、くも膜下出血が起こるケースもあります。
症状
割れるような激しい痛み
 主な症状は、激しい頭痛、意識障害、嘔吐などです。
[激しい頭痛]
後頭部に、何の前ぶれもなく突然起こる激しい頭痛は、くも膜下出血に最も特徴的に起こる症状です。
その痛みは、しばしば「バットで殴られたような激しい頭痛」と表現されます。くも膜下腔にあふれた血液が
原因で、頭蓋内の圧力が高くなる頭蓋内圧亢進症状や髄膜が刺激されるために起こる髄膜刺激症状に
よって、激痛が生じます。
[嘔吐]
嘔吐も現れます。吐気を伴わずに突然、胃の内容物を吐き出すことがあります。
[意識障害]
出血の量が少ない場合には、一時的に意識を失っても数分で回復することが多いようです。重症にになると、
無表情になり、刺激を与えても反応しないケースや、あお向けの姿勢で手足を突っ張り、弓なりに反り返る
姿勢がみられ、昏睡から覚めないまま死に至ることもあります。
 脳動脈瘤が破裂すると、半数は意識障害を起こすとされています。
[項部硬直]
首筋がこわばって痛み、前屈できなくなります。発症してから時間がたつと現れてくる症状です。
[眼底出血]
眼球の網膜がある眼底に出血が起こると、目に障害が現れます。頭蓋内圧が高まって出血したもので、
視力が低下することもあります。目の障害は発症直後にみられるケースが多いようです。
 眼底出血の程度が重いほど、生命に危険が及ぶ確立が高くなります。
[足の診察によって認められる症状]
あお向けになった状態で片側の股関節と膝を直角に曲げ、膝を上から押さえられた状態で足を伸ばしていくと、
足がまっすぐに伸びきらないで痛みを訴えることがあります。
 あお向けに寝かせた患者の頭部を前屈させると、伸ばしていた足が自然に屈曲することがあります。
[水頭症]
くも膜下出血によって脳脊髄液の循環がとどこおると、頭蓋内にある脳室にこの液がたまって水頭症を
起こし、その結果、頭痛や意識障害が現れることがあります。
 また、くも膜下出血の発作から数週間経て慢性期になると、痴呆、歩行障害、尿失禁などが
現れることがあり、正常水頭症とよばれます。
[脳出血を伴う場合の症状]
高血圧などが原因で脳の動脈が破れ、脳内に出血すると、脳の働きに支障をきたすことがあります。
手足の麻痺、感覚の低下、ろれつが回らなかったり言葉が出てこないといった言語障害など、
さまざまな脳症状があらわれます。
検査と診断
CTスキャンで確実に診断
 意識障害を起こすなど、発作の直後に救急車で搬送された場合には、まずCT(コンピューター断層撮影)に
よる検査が行われます。一過性の意識障害が回復し、発作から時間をおいて受診した場合には、問診、
画像検査などに基づいて、総合的に診断されます。
[問診]
突然の頭痛、嘔吐、意識障害などの有無について質問されます。これらの症状が一時的であっても、
くも膜下出血の疑いがある場合には、より詳しい検査に進みます。
 また、糖尿病、高血圧、動脈硬化、慢性の肺疾患など、全身状態についても尋ねられます。
[画像検査]
血液はX線をよく吸収するため、CTを行うと出血の有無や程度などがわかります。
 脳動脈瘤の有無やその部位を確認したり、脳動静脈奇形の診断を確定するには、脳の動脈に造影剤を
注入してからX線撮影をする脳血管撮影が行われます。くも膜下出血と診断されたら、脳血管撮影が
行われるのが一般的ですが、脳動脈瘤の描出のためにMRA検査(磁気共鳴血管造影法)が
用いられることもあります。
[腰椎穿刺]
くも膜下出血を起こすと脳脊髄液に血液が混じるため、脳脊髄液を調べて出血の有無を確認するために
行われる検査です。
 脇腹を下にし、両足を曲げて横になった姿勢で背骨の腰の部分に針が挿入され、脳脊髄液の採取が
行われます。
 ただし、最初の出血量が少なく、CTスキャンでは判定のできないケースに対して実施されます。
治療
早めの外科手術で再出血を予防
 いったんくも膜下出血を起こすと、突然死をもたらしたり、あるいは突然死を回避できても重い後遺症を
残すケースが半数にのぼります。
 最初の出血から24時間以内、ほとんどの場合は6時間以内に再出血することが多く、出血を繰り返すたびに
重症化して死亡率も高くなるため、早期の治療が不可欠です。
[急性期の治療]
発作を起こした直後から2週間くらいまでは、急性期とよばれます。この時期の治療の基本は、
脳神経外科で行われる手術療法です。
 瞳孔が開いていたり、呼吸が不規則あるいは弱いといった重症ケースや、手術を行っても重い後遺症が
残ると予想される場合には、薬物療法と絶対安静による保存的療法(非手術的治療)が選択されます。
その後、症状の経過が観察されることになりますが、経過観察中に状態が改善し、手術が行えるようになる
ケースもあります。
[脳動脈瘤再破裂の予防のための手術]
脳動脈瘤が破裂した場合、ほとんどは脳動脈瘤のクリッピング手術が行われます。
まず、開頭術を行い、手術用の顕微鏡を用いて破裂した動脈瘤の根元を金属製のクリップではさみ、
再出血を予防します。
 水頭症に対して、開頭時に脳室に管を挿入して頭蓋外に脳脊髄液を排出する脳室ドレナージが行われる
ことがあります。また、正常圧水頭症に対しては、脳室と腹部を管でつないで脳脊髄液を送り出し、
脳室に髄液がたまらないようにする方法があります。
 ハントの分類(下の表を参照)でXに属するような重症例で手術が出来ない場合などには、
絶対安静の状態で止血剤や脳圧降下剤を用いた薬物療法が行われます。
[脳動静脈奇形の治療]
再出血を防ぐために、異常血管網の摘出手術が基本となります。しかし、病巣が脳の深部にあって
手術が難しい場合は、ガンマナイフ(定位的放射線照射)を用いた放射線治療や塞栓術が行われます。
 塞栓術とは、異常血管網に血液を送り込んでいる動脈にカテーテルという細い管を挿入し、固まりやすい
糊を注入して、血管をふさいでしまう方法です。
 ガンマナイフは、放射線の一種のガンマ線を奇形部分に集中的にあて、異常血管を閉塞する方法で、
開頭手術に比べて患者の身体的負担が少ないというメリットがあります。
 その一方で、デメリットは、放射線による周辺部への影響や、治療開始から完全に奇形が閉塞されるまでに
時間がかかるため治療期間中に再出血する可能性があることです。また、奇形が小さい場合以外は
あまり効果がみられないということがあります。
[くも膜下出血の薬物療法]
くも膜下出血の治療の基本は手術です。しかし、手術を行えない場合には薬物療法が選択されます。
 意識がなく呼吸が不規則だったり、瞳孔が開いているような重症のケースや、手術の難しい部位が
出血しているケースでは、絶対安静の状態にして脳圧降下剤などが使用され、そのまま経過が観察されます。
[頭蓋内圧が高まるのを防ぐ]
くも膜下腔に流出した血液で脳が膨張したり、出血によって脳室に脳脊髄液がたまると、頭痛や嘔吐、
意識障害などの頭蓋内圧亢進症状が起こります。
 処置としては、1日につき4〜6回、脳圧降下剤の点滴が行われます。CTスキャンによる脳の状態の
観察と並行して、2週間ほど継続されます。
脳動脈瘤破裂の重症度
ハントの分類と手術による生存率
分   類 手術後の生存率
0 非破裂動脈瘤
T 無症状または軽度の頭痛、項部硬直のあるもの 90〜100%
U 中等度・強度の頭痛、項部硬直はあるが、脳神経麻痺以外の
   神経脱落症状のないもの
90%弱
V 傾眠、錯乱または軽度の片麻痺などの脳症状のあるもの 80%前後
W 昏迷、中等度から強度の片麻痺、早期の徐脳硬直(四肢の
   伸展など)、自律神経症状のあるもの
50%前後
X 昏睡、徐脳硬直、瀕死の状態 20%前後
 脳動脈瘤破裂に対する治療の基本は外科手術です。しかし徐脳硬直がみられたり、昏睡や瀕死の状態に
陥っている場合には、絶対安静を保ち、保存的治療(非手術的治療)が行われます。
・未破裂の脳動脈瘤の予防的治療
 頭痛やめまいなどがあって、MRIなどで脳の精密検査を受けた時に、脳動脈瘤が偶然に発見される
ことがあります。
 このような場合には、くも膜下出血を未然に防ぐことを目的に、手術が行われるケースがあります。
脳動脈瘤のクリッピング手術が行われるケースが多いのですが、手術が難しい部位や瘤が大きい場合には、
金属コイルによる塞栓術が行われることもあります。この方法は、脳の動脈に管を挿入して脳動脈瘤の中に
プラチナ製のコイルを送り込み、血液の成分とコイルを反応させて動脈瘤をふさいでしまう方法です。
 手術が行われるかどうかについては、医師との十分な話し合いが必要です。
なお、健康状態があまりよくない人や高齢者などで、手術が適さないケースもあります。
予防
激しい頭痛は放置せず脳神経外科へ
 くも膜下出血では、最初に出血が起こってからの数時間の対応によって、回復の程度が左右されます。
激しい頭痛や嘔吐など、くも膜下出血と思われる症状が現れたら、一刻も早く脳神経外科の診察を
受けることが大切です。
 発作による出血量が少ないと、意識障害を起こしても、しばらくすると回復することがありますが、
その場合にも決して放置しないことです。
 強い頭痛が何日も続いたり、首筋がこわばってくるケースも、くも膜下出血の可能性が高いので、
受診することが欠かせません。
[脳動脈瘤と家族内発生]
くも膜下出血の大半は、脳動脈瘤の破裂によるものです。この動脈瘤には、まれに家族内発生のあることが
指摘されています。遺伝子などで証明されたわけではありませんが、脳の血管の先天的な異常や、
血管の形成異常などがあるのではないかと推察されています。
 脳動脈瘤の家族内発生には、いくつかの特徴があります。まず、瘤が小さなうちに破裂しやすいという
ことです。また、くも膜下出血の発症は50〜60代に多いのですが、家族内発生の脳動脈瘤では、50歳
までに70%が発症しています。
 兄弟姉妹などでは脳動脈瘤が同じ位置または鏡像部位にできやすく、ほぼ同年齢で破裂する例が
みられます。もちろん、これらはきわめて少数の事例です。
 もともと、くも膜下出血の患者数は、脳血管障害のなかでも少ないものです。
しかし、半数は死亡する危険のある病気です。家族に脳動脈瘤がある人がいる時は、念のため脳ドックなどで
検査を受けておくのもよいでしょう。
まとめ
脳ドックの普及で早期発見が可能に
 診断能力の高いMRIをはじめ、脳の検査機器が発達するにつれて、脳の健診に活用しようという
考えが起こり、脳ドックが実施されるようになりました。
 脳ドックで行われる検査の種類は、各医療機関によって多少異なります。基本的にはMRIやMRAを
中心に、SPECT(局所脳血流断層撮影)などを組み合わせて検査を行います。その結果、まだ症状の
現れていない無症状性の脳血管障害を発見したり、予防的な治療を開始することに役立っています。
なかでも脳動脈瘤は発見率が高く、3〜5%にのぼります。
 検診により症状が現れる前の病変を発見できれば、そのまま予防的に治療することも可能なので、
脳の病気の早期発見・早期治療ができます。未破裂で無症状の脳動脈瘤の予防的な治療に、
脳ドックは効果を上げています。
 なお、人間ドック同様、脳ドックにも健康保険の適用はありません。
くも膜下出血は突然死の危険性が高い病気ですが、脳ドックの普及が進めば、死亡率の減少につながる
ことが期待せれています。

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