慢性腎不全と人工透析
進行した慢性腎不全には、一般に透析療法が行われます。
透析療法を続けながら合併症を起こさないようにするには自己管理が大切です。


どんな病気ですか?
進行すると人工透析が必要になる
 腎臓は血液をろ過して、水分の量やナトリウム、カリウムといった電解質の濃度などを
正常に保ち、体内でできたクレアチニンや尿素、尿酸のような老廃物(尿毒素)を
尿とともに排泄する働きをしています。
 何らかの原因で腎臓の機能が低下すると、水分や老廃物を除去できなくなり、
体内の環境の維持が困難になります。
 腎不全とは、一般に腎機能が正常の30%以下になった場合をいい、数時間から
数日で発症する急性腎不全と、数ヶ月から数年かけてゆっくりと進行する
慢性腎不全があります。慢性腎不全は慢性腎炎や糖尿病の合併症である
糖尿病性腎症などによって起こります。
 治療は、進行を遅らせることを目的に薬物療法と食事療法がおこなわれますが、
腎機能が性常時の10%以下になると、全身的に症状が現れる尿毒症に陥り、
生命の維持が難しくなります。失われた腎機能は回復させることができないため、
腎機能の低下が進行すると、透析療法か腎移植が必要です。透析に入ると
子どもには成長障害が現れ、若い女性の場合は妊娠、出産が難しくなるため、
腎機能の低下を防ぐことが特に重要です。
透析療法とは
拡散現象を利用して血液を浄化
 透析療法は、拡散と限外ろ過という原理を応用して血液を浄化する方法です。
自分の腎臓だけでは血液のろ過が十分に行えず、水分、電解質のバランスを
保てなくなったときに、低下した腎機能を代行します。
 主な透析療法には、ダイアライザー(血液透析器)を使う血液透析と、透析膜に
自分の腹膜を利用し、自宅で透析ができる連続携行式腹膜透析(CAPD)という方法が
ありますが、日本では血液透析が多くなっています。
 日本透析医学会の調査によると、1998年末現在、慢性腎不全で透析療法を受けている
患者は約18万人です。透析技術の進歩により、長期にわたって透析を続けられる
ようになりました。
 患者数は毎年ほぼ8%ずつ増加しています。原因疾患としては、特に糖尿病性腎症の
割合が増え、新たに透析療法を始めた人の35.7%となり、慢性腎炎の35.0%を
抜きました。透析患者全体に占める割合も24%を超えています。
・透析療法の開始時期
 透析療法を始めるのは、尿毒症が現れる前です。指標としては、血清中の
クレアチニン濃度と尿素窒素(BUN)が重視されます。筋肉の代謝によってできる
クレアチニンの血液中の濃度が、8mg/dl以上(正常値は成人男性1.4mg/dl以下、
成人女性1.2mg/dl以下)になると透析を始める一つの目安とされます。
尿素窒素はたんぱく質の代謝産物で、血液中の濃度が80mg/dl(正常値は8〜20
mg/dl)を超えたら透析となるケースが多いようです。
 全身性浮腫(むくみ)、電解質異常や、下痢、嘔吐、食欲不振といった消化器症状、
高血圧、貧血、視力障害、神経症状などの尿毒症の症状が強くなったり、日常の
軽い作業にも困難を感じる場合は、検査値が目安より低くても透析療法が導入されます。
・血液透析
 円筒形の器具に、中空糸という薄い膜でできたストロー状のごく細い管が1万〜
1万5,000本入ったダイアライザーを透析器として用いる方法です。
このごく細い管の中に血液を、外側に透析液を流し、膜を介して老廃物や水分がろ過
されます。
 ダイアライザーには毎分150〜250mlの血液を流す必要があります。血液を体外に
出し、また戻すには、血管に針を刺しチューブに導きますが、十分な血流量を確保し、
穿刺を容易にするための処置が行われます。
 通常、利き腕でないほうの前腕の親指側の動脈と、その近くの静脈を縫い合わせ、
動脈血を静脈に流し込むシャントは局所麻酔による1時間ほどの簡単な手術で設置でき、
1〜2週間程度で使えるようになります。設置部位は上腕、肘などの場合もあります。
[透析の実際]
まず、体重を正確に測り、ベットに横になったら看護婦に血圧を測定してもらい、前回の
透析以降に変わったことがあれば伝えます。黒い便が出たり、出血が止まりにくいときや、
月経中で出血が多い場合などは、普段どおりに透析を行うと危険なので、
必ず伝えるようにします。次にシャント部の皮膚を消毒し、針を刺して、透析が開始
されます。透析中は一定時間ごとに血圧や脈拍を測定します。決められた時間がきたら
針を抜き、その部分を約5分間押さえて止血します。看護婦が消毒してガーゼを
あてたら透析終了です。
 血液透析にかかる時間は1回4〜5時間で、これを週2〜3回行います。
[透析内容の決め方]
必要な透析量は検査値や体重の増加量、体格などで異なり、ダイアライザーの種類や
血流量、透析時間、透析回数、除水量などは、それらの数値に基づいて決められます。
透析の際には、基準体重(ドライウエイト)が設定されます。透析患者は腎臓で水分を
除去できないため、水分がたまって体重が増加します。基準体重とは、腎機能が
正常な場合に推定される体重のことで、透析によってできるだけこの値に近づくよう、
水分が除去されます。
[透析中に起こりやすい症状]
最もよくみられるのは血圧の低下で、透析終了直後には、患者の半数以上が
20mmHg以上血圧が低下するとされています。多くは過度の除水が原因です。
 不均衡症候群とよばれる頭痛、脱力感、吐き気、嘔吐、けいれんなどの症状も
よくみられます。これは、透析を始めてまもない人、腎機能が非常に低下している人の
ほか、高齢者や小児、動脈硬化や、脳卒中の既往のある場合に起こりやすいと
されています。血液中から急速に老廃物がとり除かれると、体内組織の細胞との間の
浸透圧やpH(水素イオン指数)のバランスが崩れるためで、時間をかけて透析を
行えば防ぐことができます。
 そのほか、胸痛、腹痛、こむら返り、血管痛、出血などがみられ、高血圧の人は
血圧が上昇することがあります。
・連続携行式腹膜透析(CAPD)
 CAPDは、自宅でできる透析療法です。準備として、局所麻酔下でへその横を小さく
切開し、腹腔内にCAPDカテーテルを挿入し、留置します。カテーテルを通して腹腔内に
透析液を注入し、周囲の腹膜を透析膜として、腸間膜の毛細血管との間で透析を行います。
 CAPDの最大の長所は透析液の交換が自宅や職場で簡単にできるため、通院が
2〜4週間に1度でよい点です。また、腹腔内に透析液が入った状態で通常の仕事や
外出が可能となり、行動の制約が著しく軽減し、24時間持続的に透析が行われるため、
からだへの負担が少なくなるのも利点です。ただし、自己管理が非常に重要になります。
[CAPDの実際]
腹部に留置したカテーテルに接続チューブで透析液の入ったバッグをつなぎます。
1回に1.5〜2.0リットルの透析液を腹腔内に注入し、4〜6時間たったら、透析液を
排液用バッグに出し、新しいバッグをつないで透析液を注入します。注入に約10分、
排液に約20分かかり、通常、これを1日3〜5回繰り返します。
 CAPDで特に重要なのは清潔を保つ自己管理です。カテーテル出口部のシャワー洗浄や
消毒を徹底し、透析バッグ交換の際には念入りに手の洗浄を行い、マスクを着用し、
できる限り清潔な操作を行います。
[合併症]
最も問題となるのは感染で、腹膜炎、カテーテル出口部感染、トンネル感染(カテーテルを
通したトンネル部の感染)がよくみられます。
 腹膜炎は、バッグ交換時などにカテーテルを介して細菌が侵入するために起こります。
腹痛、嘔吐、下痢、発熱、悪寒などの症状が現れますが、その前に排液の濁りから
発見されることも少なくありません。腹膜炎が疑われる場合は直ちに排液バッグを持って
受診しましょう。
 腹膜炎の多くは抗生物質の投与で治りますが、1ヶ月以内に再発したり薬の効果が
ないもの、トンネル感染から起こった場合などは、カテーテルを抜くケースもあります。
 カテーテル出口部感染やトンネル感染は、出口部が不潔になったり、カテーテルの
固定が不十分な場合に、繰り返し発生しやすいものです。
出口部のガーゼに膿がついていたり、トンネル部に沿って痛みや出血があれば、
感染が疑われます。
スプレーや軟膏の抗生物質を用い、出口部を清潔に保つよう努めます。
・長期透析の合併症
 透析期間が10年前後になると、合併症が発生しやすくなります。死亡原因では、
心不全(約24%)、感染症(約15%)、脳卒中(約13%)が多くみられます。
[心不全]
血液透析では短時間に血液を透析器へと導くために心臓が負担がかかり、長く続けると
心臓の機能が低下して、十分な量の血液を拍出できなくなる心不全を起こすことが
あります。貧血や体液過剰、高血圧など透析患者に起こりやすい症状も心不全の
原因になります。予防には適切な水分管理、適度な運動、体重増加の抑制、
血圧のコントロールや貧血の防止が有効です。
[感染症]
感染症にかかりやすいのは、免疫力が低下しているうえ、シャントがカテーテル出口部の
ような感染しやすい部分があるからです。手洗いやうがいをはじめ清潔に気を配り、
栄養や睡眠を十分にとって疲労を残さないようにすることが予防につながります。
[脳卒中]
脳出血と脳梗塞、くも膜下出血などがみられますが、特に多いのは脳出血です。
透析患者は、もともと脳卒中の危険因子である高血圧、糖尿病、高脂血症などをもっている
ことが多く、予防を徹底する必要があります。
[貧血]
腎臓の働きの一つに造血ホルモンであるエリスロポエチンの分泌があります。
腎不全になるとその分泌が低下して貧血が起こり、かつては透析患者はしばしば輸血を
必要としました。しかし、現在はエリスロポエチン製剤が開発され、貧血の予防が可能に
なりました。
[その他の合併症]
透析アミロイドーシスは、アミロイドという物質が、関節や腱に沈着して関節痛や手足の
しびれを起こす合併症です。アミロイドのもとになるβ2−ミクログロブリンという
たんぱく質を除去する予防法が試みられています。
また、骨がもろくなったり、骨痛や関節痛をきたす腎性骨異栄養症という骨障害も多く
みられます。血液中のリン濃度を低く保つことが予防になります。
透析患者の自己管理
塩分、水分、カリウム、リンを制限
 合併症を起こさずに透析療法を続けられるかどうかは、自己管理にかかっていると
いっても過言ではありません。自己管理には、シャントやカテーテル出口部のケアなど
透析療法に直結することと、食事や運動など日常生活にかかわるのもがあります。
日常生活で重要なのは食事療法で、特に塩分、水分、カリウム、リンの制限です。
 塩分の摂取量が多いと血液のナトリウム濃度が上がり、のどが渇いて余分な水分を
とってしまい、体重が増加します。基準体重を維持するには、調理に使う塩分は
1日5〜6g、飲み水は除水量に500mlを加えた量を厳守することが大切です。
 カリウムが制限されるのは、血液中のカリウム濃度が高くなると突然死につながる
不整脈を誘発するからです。一般に果物、野菜、イモ類、肉類に多く含まれているので、
これらを大量に食べないようにします。特にカリウムが濃縮されているドライフルーツは
厳禁です。
 リンのとりすぎは骨をもろくする上皮小体ホルモンの過剰分泌を促し、骨障害を招きます。
予防のためには、透析の初期からリンを制限します。食品に含まれるリンの量はたんぱく質
の量と相関するため制限は難しいのですが、乳製品や骨ごと食べる小魚など特に
リンが多い食品を避け、食事の際にリンの吸着剤を服用します。
 透析に入ると、それまでのたんぱく質の制限が緩和され、長期に体力を保っていくために
十分な栄養摂取が必要となります。正常な腎臓は老廃物と水分を取り除いて、
からだに必要な物質は再吸収しますが、血液透析ではたんぱく質の原料となる
アミノ酸も1回に5g以上失われるため、補充しないと不足を招きます。
 透析療法に入る前は制限されていた運動も、透析導入後は体力の回復と維持のために
必要になってきます。ウォーキングなどの軽い運動から始め、徐々に運動強度を高めます。
まとめ
透析技術の進歩で普通の生活も可能に
 慢性腎不全の治療に透析療法が導入されてから30年ほどたちます。透析技術の進歩や、
夜間透析が受けられる施設も増え、透析を受けながら健康な人と同じように学業や
仕事ができるようになりました。また、CAPDのような携帯型の人工透析装置の利用や
医療機関同士の連携によって、行動範囲も広がり、国内はもとより海外旅行も
可能になっています。透析膜や透析液、装置の研究は盛んに続けられており、より効果の
高いシステムの開発も期待できます。ただし、透析療法を成功の決め手は自己管理です。
自分の病状や透析を理解し、自分のからだは自分で守るという意識をもちましょう。

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