胃ガン
日本人のがん死亡者の5分の1を占めますが、早期発見すれば、
ほぼ治ります。早期の場合、患部だけを切除する内視鏡手術で完治します。


どんな病気ですか?
正常細胞が傷ついてガン化する
 がんが遺伝子の病気であることが、最近の研究ではっきりしてきました。つまりがんはもとをただせば
正常な細胞で、それが長い年月をかけて、ガン化していくのです。
 胃がんの場合、粘膜の分泌細胞から発生します。それは、分泌細胞の中の遺伝子がタバコや食品中の
残留農薬、ウイルスなどの発癌物質によって傷つくことから始まります。
 通常、健康な細胞は数日から数百日で新しい細胞と入れ替わりながら機能を維持しています。
その際、細胞のなすべきことのすべての情報を伝えるのが遺伝子で、この情報は次の細胞に
正確に引き継がれていきます。
 ところが遺伝子が何度も傷つくと、その情報が狂ってきて勝手に増殖を始め、周囲の細胞を侵食するようになります。
これが、ガンです。
 胃の中でたった一つ発生したがん細胞は、分裂を重ねながら徐々に大きくなっていきます。
通常は、数年から数十年で直径1mm弱の大きさになりますが、このころはまだ発見できません。
さらに数年から数十年をかけて最大径2〜5mmていどになり、やっとレントゲンや内視鏡で見つかるようになります。

統計からわかること
生活要因が強く関与
・発症の地域差
 胃がんは日本の中でも北陸地方に多く、沖縄、鹿児島、熊本県などに少なく、
地域によって格差があります。胃がんは遺伝などといった先天的要素より、
特に食生活、又はライフスタイルなどの生活習慣的な要素が発症との関係は強いとされています。

発症の年齢差・性差
 胃がんは40代で急激に増え始め、50〜55歳でピークとなります。
男性ではがん全体の約5分の1、女性では約6分の1を占めます。
トータルとして毎年5万人強が新たに胃がんにかかっていることになります。男女比は5対3です。
 胃がんで亡くなる人の数は人口10万人当り40人弱で、以前は男女共ずっとがん死亡原因のトップでしたが、
男性の場合、現在、肺がんが1位です。胃がんの死亡者数は減少し続け、この傾向は
今後も続くとみられています。
 がん患者が増え続けている中で、死亡者の減少は何を意味しているのでしょう。
それは胃がんになっても、治る確率が高くなったということです。
集団検診や人間ドックの普及、診断技術の進歩によって発見が早くなり、治療技術が向上したことによって
治癒率が高くなった、とみられています。
・家族歴と発症の関係
 ”がん家系”という言葉がありますが、家族に胃がん患者がいる人といない人とでは、
発症の差が統計にはっきりでています。そのリスク差は1,7〜1,9倍と報告されています。
ほかのガンと比べてみても、両親、兄弟(姉妹)に胃がん患者のいる人は、
胃がんにかかる率がほかのがんの場合より5〜6倍も高いという報告があります。
このように統計からしても、胃がんの家系は存在するといってもいいと思います。
・胃疾患歴と発症の関係
 胃炎や胃潰瘍などの患者は胃がんになりやすいかという議論は、古くから専門家の間で戦わせてきました。
まだ結論はでていません。ただ、胃粘膜に長期間、著しい病変があればがん化しやすいという報告が
最近では重きを増しているようです。また、ヘリコバクター・ピロリ菌との関係も指摘されていますが、
ピロリ菌感染者が必ず胃がんになるわけではありません。

進行度の指標
胃壁内部への深さと転移の範囲で診断
 胃壁は胃粘膜固有層、粘膜下組織、固有筋層、しょう膜下組織、しょう膜の5つの層から成り立っています。
胃がんは一番内側の粘膜に発生しますが、大きくなるにつれ胃壁深部へと侵食していきます。
 この深さが胃がんの進行度を測る一つの指標になります。粘膜表面あるいは粘膜下組織に
とどまっている場合は多少大きくなっても悪性度は少なく、早期がんとよびます。
 粘膜下組織より深部へ侵入すると進行がんの範疇になってきます。
そこには血管やリンパ管がたくさん走っているので、その流れに乗ってリンパ節やほかの臓器へ転移しやすくなります。
 この転移の広がり方が胃がんの進行度を測るもう一つの指標です。
一番多い転移はリンパ節転移です。リンパ管は胃に張り巡らされ、侵入してくる細菌やウイルスをくい止める
役割を担ってリンパ節に到達します。がん細胞はそのリンパ管を伝っていきます。
したがって手術はがんの患者に加えて、このリンパ管をさかのぼってリンパ節をも切除することになります。
早期がんでもこのリンパ節転移はみられますが、手術によって治る転移といえます。
 次に多いのが肝臓への転移で、がん細胞が門脈流に乗って肝臓にたどりつき、そこにすみつきます。
肝臓を経て、さらに肺や骨にてんいすることもあります。
 三つ目のがんの広がり方は、胃壁を食い破り、そこからこぼれ、周囲の粘膜や小腸、大腸、膀胱などの
外壁にくっつきます。あたかも種をまいたかのように広がっていきます。
 がんの進行度は、侵食の深さと転移の範囲の二つを加味して診断します。

症状
胃の違和感に注意
 初期にはほとんど無症状で、ある程度進行してはじめていろいろな症状があらわれます。
最初の症状としては、胃が張る、違和感がある、鈍い痛みがあるといったものがあります。
空腹時や食後に感ずることが多いのですが、次第に食事とは無関係に感じるようになります。
 胃がんが進行すると、食欲不振、吐き気、吐血、下血、貧血などの自覚症状が出てきます。
また、がんが胃の入り口近くにあると、入り口を狭くするために飲み下しが悪くなります。
胃の出口に近くにあると、食べ物がたまって嘔吐が起こります。しかし、いずれも胃がん特有の
症状ではなく、胃炎、胃・十二指腸潰瘍などでも現れる症状なので、混同しがちです。
疑わしい場合は病院へ行って、検査をするのが賢明です。

分類
病気によりTW期に分類
 胃がんの分類はステージによる分類です。つまりがんの進み具合による分類です。
 胃がんの進み具合は深さと転移の状況で決まります。T〜W期までありますが、
要約すると深さが粘膜近くにとどまっていて、かつリンパ節転移が狭い範囲のものはT期で、
早期がんに分類されます。それより深くなるにつれて、U、V、W期になっていきます。
U期以降を進行がんといい、V期までが手術で切除可能とされています。
W期では手術以外の放射線療法、抗がん剤による療法が用いられます。
 最近の5年生存率は、T期が約95%、U期が約83%、V期が約54%、W期が8%です。
次にがんの深さからみた5年生存率は、一番内側の粘膜層だけの場合は99%、
次の粘膜下層に達している場合が93%、進行がんに分類される固有筋層まで達していると85%、
胃壁の外側部分のしょう膜下層までだと60%、一番外側のしょう膜に及んでいると30%、
しょう膜を超えて直接ほかの臓器に浸潤していると10%以下となります。
 いずれも便宜上、転移が無いか狭い範囲にとどまっているかと仮定しての数値です。
胃がんは大別すると、一塊になって成長していくものと、種をばらまいたようにバラバラになって成長していくものがあります。
 前者は正常な細胞との境界がくっきりしていて、手術をしやすいといえます。このタイプの大きさが
3cmいかで、中に潰瘍ができていまければリンパ節転移の確率は低くなり、内視鏡手術の適応範囲に
入ると判断する医療施設もあります。
 後者は内視鏡で切除するには不可能なタイプのがんです。

治療
手術で切除するのが基本です
 胃がんの治療の基本は手術で、病巣部分を切除することです。抗がん剤による化学療法、
放射線療法が最初に選択されることは、まずありません。いずれも手術と組み合わせて副次的な
療法として使用されるのが一般的です。
 手術をする際、問題となるのが切除範囲です。病巣が胃粘膜にとどまっていて、
転移の可能性が極めて低い場合は、開腹する必要のない内視鏡による手術が最近では
行われるようになりました。
・全摘と部分切除の分かれ目
 早期がんでも転移の可能性が少しでもある場合は、その広がり具合の可能性によって、3分の2ほどを
切り取る部分切除か胃を全部摘出する全摘手術が行われます。部分切除は、がんの出来ている部位と
広がり具合が胃の出口付近にとどまっている場合に行います。
開腹を伴う手術のうち約70%を占める手術法で、食物の逆流を防ぐ胃の入り口(噴門部9を残すので
患者にとっては大きなメリットがあります。
 また胃の出口で、食物を十二指腸に徐々に送り出す役目のある幽門部を残せるか残せないかは、
手術後、生活を送るうえで大きな違いがあります。
 がんが胃の中央部や上部にできている場合は、全摘手術を行います。切除後は食道と小腸を
つなぎ合わせます。全摘手術は、開腹手術する胃がん手術の約30%を占めています。
・周囲の組織まで取る拡大手術
 がんが胃でとどまっていそうにもない場合は拡大手術といって、転移ルートであるリンパ管を
さかのぼってリンパ節を除去していきます。
 以前はどこまでリンパ節をさかのぼって手術するべきか見当がつけにくいので、
胃がん部を含め胃壁を広く切除し、かつ広範囲のリンパ節を取り除く手術をしていました。
拡大手術という名称はここからきています。正常な組織をごっそり取るので、
患者の負担は大きくなります。
 最近では胃がんのタイプ分けが進み、それぞれどの程度リンパ節に転移するか大分データが
蓄積されてきたので、拡大手術でも切除部分は縮小されつつあります。
多くの病院では、手術をしながら途中でリンパ節の組織をすぐに病理部に送り、顕微鏡による
診断をして転移の有無を確認しつつ手術が進められるようになりました。
胃がんの周囲の臓器まで転移していたら、その切除も行います。
 ちなみに各手術の入院期間ですが、内視鏡による手術の場合、入院期間は約1週間、
部分切除の場合3〜4週間、全摘の場合は5〜6週間が目安です。
・手術の後遺症
 胃の切除をした後の代表的な後遺症が、後期ダンピング症候群です。
胃の幽門は食物を徐々に十二指腸に送る役目を持っていますが、この部分が切除されると
食物がどんどん小腸に流れ込み、養分が吸収されるようになります。
そのスピードがあまりにも速いので、血液中の血糖値が急激に上がり、それを処理するため
膵臓からインスリンが大量に分泌されます。
 一定時間がたつと、今度は血中の糖代謝が進みすぎて血糖値がどんどん下がってしまいます。
これが原因で、食後2〜3時間もたったころ、低血糖により突然、脱力感、冷や汗、倦怠感、
めまいなどが起こります。
 この後期ダンピング症候群を予防するには、食後2時間ほどして、あめ玉をなめるなどすれば
予防できます。
 そのほか、食後の吐き気、腹が異常に張る、下痢、顔面紅潮、胸やけなど、
患者にとってはかなりつらい後遺症が、胃切除はついてまわります。
 胃切除(胃全摘)後の後遺症がもう一つあります。からだにとって不可欠なビタミンB12の
吸収に必要な物質が、胃の切除によって分泌されなくなるので、年に1〜2回ビタミンB12を
注射する必要が生じてきます。
・抗がん剤による治療
 手術以外によく使われる治療が、抗がん剤(化学療法)と放射線療法です。
胃がんは抗がん剤が最も効きにくいがんの一つです。そこで抗がん剤が使用されるのは、
次の2つのケースです。第一に進行がんで手術が不可能な場合、また手術後再発した場合です。
手術できない患者をいかに延命させるかが狙いとなります。
第二に、手術の前に投与し、手術で取れり切れなかったがんをたたく場合、再発を抑える場合などです。
いずれも手術の補助的な目的で使われます。
 抗がん剤の効果は個人差が大きく、効く人とほとんど効かない人とがいます。
また抗がん剤の効果はゆるやかで、多くの場合、副作用の方が先に現れます。
つらい治療法となる場合がありますので、事前に医師の説明をよく聞いて、治療してください。
 抗がん剤の副作用としては、新陳代謝が活発な箇所に現れやすいので、抜け毛、口内炎、
吐き気、下痢などが起こりやすくなります。また、白血球や血小板が減少したり、肝臓や腎臓に
かなりの負担をかけてしまうことにもなります。
このような副作用がありますが、薬の開発も進み、副作用は少なくなってきたと思います。
・放射線療法
 放射線も同様に手術の補助的な目的で使われることがほとんどです。
最近ではコンピューターと連動して照射方法も進歩し、正常な組織にはあまり当てずに
がん病巣だけに効率よく当てる技術が確立されています。この療法につきものの
抜け毛や吐き気、脱力感といった副作用もかなり軽減されつつあります。
手術前、手術中、手術後いずれのタイミングかで使われます。

ハイリスクの人は定期検診を
 胃がんは発症の引き金となる因子がいくつも重なって発症します。その因子を多く持っている人は
胃がんになりやすいハイリスク者といえます。
 その因子は次のようなものです。
・40歳以上の人
・男性
・ストレスの多い仕事についている
・家族に胃がん患者がいる
・タバコも酒も大量にのむ
・塩分の多い食品がすきな人
・焦げている焼き魚、ハムなどをよく食べる人
 上記のうち、年齢、性別、家族の病歴、職業については不可抗力ですのでどうしようもないですが、
該当する場合には、なおのこと塩分の多い食品を我慢する努力が必要です。
 タバコは肺がんとの関連がよく指摘されますが、実は胃がんとの関係もあります。
喫煙者は非喫煙者に比べ1,5〜2倍の発症率になると報告されています。
 タバコの害がアルコールによって強化されるという説もあります。
胃がんではアルコール自体には発ガン性はありませんが、量がすぎると胃の粘膜を傷つけ、
そこにタバコの中の発ガン物質が作用すると影響は相乗作用で強くなります。
胃がんの中で胃の入り口に近い部位のがんでは、喫煙者は3倍、アルコールも両方のむ人は
5倍も発症率が高くなります。
胃の出口に近いがんでも、喫煙者は2倍もリスクが高くなります。
 栄養素の中には、がんを抑制する働きをもつものがあります。
ジャガイモ、イチゴ、緑の濃い野菜やフルーツに大量に含まれるビタミンCには、発ガン物質の一つである
ニトロソアミンの体内での合成を抑制する作用があります。
 胚芽米や落花生などに多く含まれるビタミンEには、脂肪分が体内で酸化するのを抑え、
がん化を促進する物質の生成を抑制する作用があります。
 またかぼちゃ、ニンジン、ウナギなどに多く含まれるビタミンAやβーカロチンも、がんの発生を抑制する
作用がありますので、積極的にとりましょう。


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